◆成功したという気持ちはゼロパーセント。寺尾社長の描く理想の姿とは
──2003年に1人で創業して以来、順調に事業を拡大されています。バルミューダの強みはどこにあるとお考えですか。
寺尾:我々の強みは企画力、アイディア力にあると考えています。そしてもう一つ、バルミューダが他の会社より恵まれていることがあるとしたら、創業社長がいることです。これは言葉に尽くせないアドバンテージだと思いますね。
人間って、時間や労力をかけて何かをするとき、もとに戻るくらいならいいやって思えるじゃないですか。創業者は会社がなかったときを知っているわけだから、「ゼロ」に戻ることが想像できるんです。ゆえに、チャレンジの幅が広くなる、打撃力が強くなるんですね。対して、前任から会社を引き継いだ人は、このバトンを絶対に落としてはいけないと考え、それが行動指針になるはずなんですね。ゼロに戻るなんて想像できないと思います。
──ちなみに、寺尾社長がバトンを渡すことは考えていますか?
寺尾:今のところ具体的な想像はしていません。ただ、いろんなやり方があるだろうとは思っています。普通に引き継いでいくこともできるだろうし、全く別の形で、社会に役立つ会社の変化の仕方がないだろうかとか、いろいろ考えてはいます。が、そもそも、私はまだ、成功したという気持ちはゼロパーセント。何だこの不甲斐ない状況は! これでいいのか、オレ! って、毎日毎日、自分自身に問い詰められていますから。
──まったく満足されていないのですね。社長の理想はどこにあるのでしょうか。
寺尾:ロックスターのブルース・スプリングスティーンですね。彼は素晴らしい人生を送っています。世界中で年間300本以上のライブを行い、スタジアムでは毎日のように、5万人の観客が熱狂をもって彼を迎える。最高の人生だろうと思います。ただ私はアーティストをやめた人間なので、私自身が人気者になりたいとはもはや望みません。道具屋として、自分たちがつくった商品が、人気者になるべきだと思っています。世界中、どの国に行っても持っている人がいるとか、どの街でも大喜びしてくれるような商品を生み出したいですね。買ってほしいというより、喜んでほしい。それが目指す姿です。