余談ですが、勉強のときとセリフを覚えるときでは使う脳が違うような気がする。セリフの場合、何度も書いて覚える人、何百回も読んで覚える人など、役者によって違うようで、私の場合は目で見て覚えるタイプ。台本をじーっと眺めて視覚から吸収するタイプ。
早い話、コピー人間だ。かつて『SMAP×SMAP』で木村拓哉さんと夫婦役で共演したとき、彼はその場で5~6ページの台本に目を通し、ほんの5分くらいで「はいOK」って、驚愕のスピードで覚えたのを間近に見たっけ。
職人芸とはこの事か!と感激したもの。私はといえば、その台本を前日にいただいても四苦八苦だった。
面白い事に、覚えたセリフは、たいてい次のドラマがくると、ところてん式に忘れてしまう。凄いときは、そのシーンを撮り終わると同時に忘れる。
以前、「もう一回、撮りなおします!!」と言われ、もう一度衣装に着替えたはいいものの、全くセリフが出てこなかった事も。脳の仕組みに驚いた。
しかし、珍しい経験では、男装の麗人・川島芳子役で、全編中国語のセリフ。目で見ても漢文でわからないので、テープを作っていただき、兎に角時間があれば聴いた。
結果、今でも一言一句そのセリフが言えるのだ。それも流暢に。聴覚コピーは、昔の歌謡曲が今でも歌えるように、脳に刻み込まれるのだろうか。今度脳科学者のお友達、中野信子ちゃんに聞いてみよう。
話を戻し、今回の受験科目は、日本史、世界史、現代国語、現代社会、英語。ドラマの仕事が入り時間配分に追われ、どうしよう…と思い悩むほど苦しい事もしばしばあったが、睡眠時間をけずり何とか生きのびた。そして兎に角勉強に浸かった。
頭は熱を帯び、私は役者だ!二度と勉強なんかするもんか!と苦し紛れに逃げそうになった日もあるけれど、ドラマの時代背景を知るのに日本史、世界史は役立ち、また情報番組では、現代社会、そしてやはり日本史をしっかり知ってこそ理解が深まるのだ。
現実の私の生活には不要なようで、実は如何に必要としているかがわかった学び。
試験が全て終わって、会場だった明治大学の校門を出るとき思った事は、また早く勉強がしたい、だった。大人になって目覚めた知的好奇心は、今まさに、どんどん膨らんでいるようだ。ん? テストの結果ですか? それはもはや、あまり関係ないのかもしれません。…なんてね。
撮影/渡辺達生
※女性セブン2017年10月12日号