◆家族という小さい社会が回り出して、大丈夫と思えました

「学校に行かなくなってから、さあこれからどうしようっていうのを必死で考えました。何か生きていく“やりがい”とか“できること”を見つけてもらいたかった。まずは皿洗いやご飯を炊くところからお手伝いしてもらいました。その中で、もともと私が淹れていた珈琲をひーくんが淹れたらすごくおいしかった。そこからひーくんも“できることがある!”って達成感を得られたんです。

 別に夢を追わせたいとか、そんなキラキラしたものじゃなかったです(苦笑)。現実的に、会社勤めは難しいと感じていたので、500円でも何か自分で稼げるものがないかってしらみつぶしに探していきましたね。パンも作ってみたし、野菜も作ってみたし、カレー屋も考えました。火加減みる時に近づきすぎて前髪焦がしちゃったりもして(笑い)。わりとカレーは上手に作れるようになって、これならマルシェでひき売りして、月に20万円くらいは稼げるかなとか、リアルに試算しました。でもカレーのスパイスを調合しているうち、かくし味にいいよ、と言われて珈琲の焙煎にのめり込んでいくんです」

 響くんのペースに合わせることで、次男の水葵(みずき)くん(10才)と三男の葉月(はづき)くん(9才)はヤキモチを焼かなかったのだろうか。

「もちろん最初のうちは『ひーくんだけ学校行かないのはずるい。おれも休んでいい?』って文句言ってましたね(笑い)。でも弟たちのクラスにも発達障がいの子がいて、だんだん発達障がいの特性が理解できてきたみたいで。こういうふうに言うとひーくんがわかるなら、今度○○ちゃんにもそういうふうに伝えてみようかな、とか。そういう意見が弟たちからポツポツと出てくるようになって、ちゃんと伝わってるんだなと思えて嬉しかったですね。

 それと、不登校になって1年くらいしたころだったかな。ひーくんが5行くらいの内容を紙に書き写そうとしていて、午前11時ころから始めて、夕方5時に弟たちが帰って来た時にまだ1行も書けていないことがあったんですよ。それで彼自身がすごくショックを受けてしまって。6時間ずっとご飯も食べないでやってたのに、ぼくは何をやってるんだろうって。そうしたら弟たちが「できないのがひーくんじゃん。ひーくんにしかできないことがあるんだから、それでいいんだよ」って慰めていたんです。それがまたすごく励みになったんですよ。家族ってすごく小さな輪ですけど、1つの社会。そこが回り出せばきっと社会も回り出すと思いたかったんです」

 暗闇から抜け出した瞬間だった。

「でも、それには親と子が同じ方向を向いていないと難しいと思います。子供に勝手にやりたいこと探しておきなさいって言うのは、健常者だって難しいですよね。何ができそうで、何が向いてないのか、ダメなら次は何にチャレンジするか。弟たちにも同じように、できることを探しているところです」(開人さん)

※女性セブン2017年10月19日号

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