「たしかに多かったですね。正義感の強い役、正義のために自分の命を賭した役。それは、いつも最初にあの作品のことを思い出してやっていましたから。あの時の役を役者として超えられるかとか、役者としての行動の一つの基準になっていました。もし最初に違う役が来ていたら、その後の演じる役や人生自体も違っていたかもしれません。
ですから、『人間としてこう生きなきゃならない』と思ってそういう役を演じてきたわけではなく、役を演じる間にだんだんそうなっていった。自分から『これをやりたい』『これは嫌』と言うことはなく、与えられた役をやってきました。悪役をやってこなかったのは、そういう役を振ってくれないだけなんです」
映画デビューは1963年の木下惠介監督『死闘の伝説』。木下作品は『新・喜びも悲しみも幾歳月』まで六本出演している。
「映画も反戦をテーマにしている作品が多いですね。木下先生の映画の多くもそうでした。『死闘の伝説』は家族の疎開先に自分が復員したところ村から排除されるという内容でしたし、『新・喜びも~』は最後に自分の息子が水産学校の生徒として船に乗っていくのを『これが戦争に行く船じゃなくてよかった』と見送る場面で終わります。
最初は『人間の條件』を観て選んでくださったのですが、『先生、どういうふうにやったらいいですか』と聞いたところ、『君が思うようにやればいい。君を選んだ時、もうこの役は半分以上決まっているんだから』とおっしゃってくださったんです。信頼してくださったんですね。そういう、優しい先生でした」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小社刊)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年10月13・20日号