「歴史上の人物を演じる時、背景を調べたり、その人が実際に生活していた場所が今もあればそこに行くようにしています。その役として生きているうちに、役柄に近い生活をしたいと思って現地に行きたくなるんです。
たとえば伊能忠敬の時は佐原にあるお宅がまだ残っていたのでそこに行き、伊能さんが座っていた場所に座り、天の星を見たりしながら『こんなことを感じて暮らしていたのか』ということを思いました。
もっと遠い所では、舞台で『コルチャック先生』をやった時にポーランドに行きました。先生は孤児院の院長だったのですが、その孤児院に行った時に『先生はこの階段を手すりにつかまって昇ったのかな、このホールにいたのかな』と想像しています。
先生は最後に子供たちとナチに連行されて、トレブリンカのガス室で命を落とします。そこにも行きました。
役者というのは何か役を新たにやる時、役を深めるため、役に近づくため、何か手掛かりが欲しいんです。ですから、現地に行ったり著作や日記を読んだりして、『こんな時にこういうことを思ったんだろうな』ということを考えるようにするわけです。その役をやるためには、役として心で生活しなければなりません。ですから、その人の思想や考えていたことを探るのは手掛かりとして一番大事なことだと思っています。僕なりの想いでしかないんですけどね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館刊)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年11月3日号