てっさに梅肉を添えるのも初代の頃から。フグのアミノ酸が梅のクエン酸と出会うと旨味成分がイノシン酸に変わり、相性が非常によいと言う。フグの皮の美味しさを堪能できる料理が多いのも、喜太八の特長。皮を5層に分け、食感の異なる各層を様々な切り方や味つけで趣向を凝らす。てっちりの土鍋は90年以上の歴史を持ち、長年蓄えたフグの旨味が鍋のひびからも溶け出しているそうだ。
店で使うのは、身の締まりのよい1.2~2kgまでの天然トラフグのみ。北濱さんの孫で三代目の石田福王さん(40)が朝3時すぎに、初代の時代から取引している仲卸へ出向き、その日調理するフグを仕入れる。北濱さんは戦後に6年間、漁師として日本列島沖を巡ったこともあり、当時仕事をした全国各地の仲間や知り合いからも、「喜太八で使ってほしい」と仲卸の元にいいフグが集まるという。
北濱さんは厨房に立つ傍ら、昭和29(54)年に「世の中からフグ中毒をなくしたい」との一心で東大、京大、九大の研究者らと「日本ふぐ研究会」を設立。長年、フグ中毒撲滅や啓蒙に尽力してきた。私財を投じた「ふぐ博物館」には、研究で集めた骨格標本や工芸品などが並ぶ。現在も研究や執筆に打ち込んでおり、「私はほんまのフグ中毒や」と北濱さんは笑う。フグにかける情熱は今も燃え続けている。
撮影■岩本朗 取材・文■上田千春
※週刊ポスト2017年12月1日号