リハーサルの段階から、言い間違えたり映像とずれたりすることはない
たとえば、「ずっと聞きたかった質問です」と書かれている場合、文字通りに「ずっと聞きたかった」とあっさり話す言い方もあれば、「ずう~っと聞きたかった」と強調する言い方もあります。どちらがよいのかは、その作品の内容やトーンにもよります。芝居のセリフもそうですけれど、できることなら文字に自分の中で導き出したベストなハートを乗せて、生きた言葉にしたいという思いはあります。
今日収録した『僕…婿に入りました~葉山げんべい物語~』を例に挙げると、原稿には「大丈夫か、英三郎」と書いてあっても、「おい、おい、大丈夫か、英三郎……そんなことをしたら、お前さん」という気持ち、自分の人生経験をプラスしていく方法もあります。ただし、作品によっては感情を入れ過ぎて失敗する場合もありますし、作品ごと、シーンごとに見極めていかなければいけません。
収録ではOKをもらっても、「いま読んだのも一つの方法だけど、こっちの言いかたの方がいいかな」ということも出てきます。現場では時間が許す限り、「この部分、もう一回やらせてくれる?」とお願いしますね。それは制作スタッフも同じ。お互いに納得できるまで粘り、最終的によい方をチョイスしてもらいます。収録して終わりではなく、必ず放送されたものを何度も見返します。
◆僕のガラガラ声が邪魔しなきゃいいけど
1990年代半ばに『ザ・ノンフィクション』が始まる以前、僕はナレーションの仕事をやりたくて仕方がなかったんです。そこで、詩を朗読したり、音楽をバックに話したりしたものを自分で録音し、デモテープを作って様々なところに配りました。
初めてのナレーターの仕事は紀行ドキュメンタリー番組『グレートジャーニー』の宣伝用映像でした。その担当者が『ザ・ノンフィクション』の立ち上げに関わっていたフジテレビの方で、そのご縁で番組のスタート時からナレーターを務めさせていただいています。今は複数の番組でナレーションを担当していますが、振り返ると、『ザ・ノンフィクション』がナレーター・平泉成の起点になったと思います。