それから10年が経ち、「A5」という脂肪交雑の基準は肉の味の指標になりうるのかという疑問もメディアや肉好きの間で可視化されるようになってきた。
今年の2月、本稿に書いた「和牛「A5信仰」見直し始まる 30年でサシは倍増していた」という記事でも触れたように、1985年の「A5」(それもサシが最高ランクといえるBMS12、11)の粗脂肪含量は31.7%だったが、2009年に百貨店で販売されていたA5肉には粗脂肪量69%の肉も確認されたという。基準の見直しの必要性は各所から聞こえてくるようになった。
記事のきっかけとなったのは、浅草の老舗すき焼き店「ちんや」の「適サシ肉宣言」。自店のすき焼きには「サシの多すぎる肉は合わない」と「脱A5」を宣言し、話題になった。
10年前、食べたこともないブランド牛に票を投じていた日本人は、さまざまな肉の味わいに接するようになった。生産者や精肉店、飲食の現場でも”ブランド”ばかりを追うのではなく、理念について考えを深める動きも見られる。
ハレの日のごちそうだった牛肉は、いまやさまざまなシーンでお目にかかるようになった。食い道楽の人々も、ディナーにおける数万円という高額な肉と、ランチでもりもり食べられるスタンドステーキのどちらをも好み、シーンに応じて使いわけるようになった。この数年で増えた肉にまつわる飲食業態もずいぶんと増えた。
2017年は、肉の多様化が定着し、好事家が好みの肉を選択できるようになった年でもあったのだ。