こんなことでは県職員のモチベーションも下がってしまう。県庁は優秀な人材が集まった沖縄最大のシンクタンクでもありますが、彼らが法制度を捻じ曲げることに加担させられてばかりとは……。
沖縄県と日本政府が対立する局面も目立ちます。
翁長氏が「魂の飢餓感」や「差別」などの感情的な言葉で沖縄のアイデンティティー論を振りかざし、沖縄と本土の溝を深めるかのような言動を繰り返していることに、沖縄の将来に由々しき禍根を残すのではないかと懸念しています。私たち沖縄県民は、長い間をかけて本土との溝を埋めるべく努力してきたのです。
今や私たちは、少し個性は強いけれども日本人以外の何者でもありません。こんな意味不明な言葉遊びをするのは理解できません。
私は決して今の米軍基地を良しとしているわけではない。依然として県民が被害者となる悲惨な事件事故が絶えませんが、こんなことはあってはなりません。よく企業が無事故無違反の運動に取り組んだりしますが、米軍は怠慢だとしか言いようがない。
ただ、東アジアの現在の情勢を考えると、日米安保体制の堅持が欠かせません。中国が圧力を強める尖閣諸島は沖縄県の一部。一定の米軍のプレゼンスは必要です。だからこそ、沖縄の基地負担の軽減を一歩一歩着実に現実的に進めることで、日米安保体制の安定的な運営に繋げていくべきだと思います。即時全面返還などの情緒的な反対を唱えるだけでは決して解決策とはなりません。
【PROFILE】なかいま・ひろかず/1939年生まれ。東京大学工学部卒業後、通商産業省に技官として入省。1987年に沖縄電力理事に、1990年からは大田昌秀沖縄県知事の下で副知事に就任。2006年より、沖縄県知事を2期務める。
●取材・構成/竹中明洋(ジャーナリスト)
※SAPIO2018年1・2月号