国内

認知症患者 生きる意欲が湧き、道端の花にも気づくように

認知症の母が道端の花に目を留め…

 認知症の母(83才)の介護を続けている女性セブンのN記者(女性・54才)。植物に心を寄せる母の姿に、何を感じたのか。N記者が明かす。

 * * *
 母は認知症の診断以前から、同じ話を繰り返すなど、それらしき症状が見えていたので、実際には、発症から10年近く経つのかもしれない。

 診断当時は“物盗られ妄想”などの症状も壮絶で、実家の枯れ放題の鉢植えを見ては「認知症患者の平均余命8年」という情報に絶望的な気持ちになったものだが、要介護申請をして介護のプロにかかわってもらい、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に転居して3食を食堂に託し、デイサービスなど活動的な生活を始めると、みるみる落ち着きを取り戻した。生き甲斐を失うどころか、夫との死別後、自分の老後を生きる意欲が湧き出し始めた感じだ。

 母の状態が好転し始めたことを認めたのは、転居して間もなく、認知症の定期診察の帰り道でのこと。ふと母が目の前の街路樹に向かって、

「あらあら、すごい柄ね。服着てるみたい」とつぶやいた。

 見ると、プラタナスの幹が、なんともみごとな迷彩柄!

「ホントだ! うちのS(娘)もよくこういうの着るよ」と、2人で笑った。

 当時はまだ妄想などの激しい症状があり、私も辛抱できずに、母娘間の空気は険悪だった。そんな中、久しぶりに交わした穏やかな会話だった。それにしても、並んで歩いているのに、見るところが違うものだ。認知症だから、少なくとも私よりは視野が狭いと思っていたので、結構、驚いた。

 そして母はプラタナスの根元の雑草の花に歩み寄り、愛おしそうに1本摘んで帰り、父の写真の前に飾っていた。

 この出来事の後、取材でお会いした漫画家でうつの克服体験を綴った『うつヌケ』の作者・田中圭一さんから、「うつが快復し始めたことを実感したのは、道端の花にふと目を留めた自分に気づいたときだった」と聞き、思わずこのときの母を思い出した。

◆ちいさな葉っぱに命を感じ、心がわくわくする

 母はもともと家を花で飾るとか、土いじりが大好きという人ではないが、私が子供の頃、こんなことがあった。

「Nちゃん見て見て! 葉っぱの赤ちゃんが生まれたよ」

 植物の種類は忘れたが、母が窓辺の観葉植物の鉢植えをのぞき込み、興奮していた。それは昨日今日に顔を出したばかりの葉で、形はほかの葉と同じなのに、小さくてつやつや。まさに生まれたて!

 それまで植物はいつも同じ無表情の“モノ”に見えていたのだが、目の前の小さな葉っぱはまさに今“生きている”感じがして、子供心にドキドキしたのを覚えている。

 その影響か、今も私は自宅のプランターの中の小さな芽吹きや、あさがおの蔓が園芸ロープをズンズン上って行く姿に興奮し、つい娘を呼んでしまったりするのだ。

 きっと母の中にあのドキドキがよみがえったのだ。そう思って最近は梅、桜、あじさい、紅葉と、折々の花木を訪ねて母と出かけるようになった。おかげで、季節感なく忙殺されていた私の生活にも、ささやかな四季の彩りが。うれしい伴走介護の賜物である。

※女性セブン2018年2月15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
岡田監督
【記事から消えた「お~ん」】阪神・岡田監督が囲み取材再開も、記者の“録音自粛”で「そらそうよ」や関西弁など各紙共通の表現が消滅
NEWSポストセブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
イメージカット
「有名人なりすまし広告」の類に“騙されやすい度”をチェックしてみよう
NEWSポストセブン
不倫騒動や事務所からの独立で世間の話題となった広末涼子(時事通信フォト)
《「子供たちのために…」に批判の声》広末涼子、復帰するも立ちはだかる「壁」 ”完全復活”のために今からでも遅くない「記者会見」を開く必要性
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン