岐阜県の中央に位置する郡上市にあり、長良川の支流、吉田川沿いに発展してきた郡上八幡。江戸時代を思わせる古い町並みが残り、名水の町としても知られ、郡上おどりや鍾乳洞、天空の城と話題の郡上八幡城など、見どころの多い場所だ。そんな郡上八幡は、食品サンプルの制作が盛んな地でもある。
「洋食文化が浸透した大正から昭和初期には、すでに食品サンプルは作られていました。 しかし、当時、ウインドーに飾られていたサンプルは、形はカレーやオムレツに似せてあるものの作りが雑で、決しておいしそうに見えませんでした。それで、創業者である岩崎瀧三が、精巧なものを作ればニーズがあるのではないかと考え、食品サンプル作りに着手したのが最初です」(岩崎模型製造の小保木悟さん・以下同)
試行錯誤の末、昭和7年、黄色いオムレツにケチャップがかかった本物そっくりの蝋製のサンプルが完成した。
「創業当時から岩崎がこだわっていたのは、“本物よりも本物らしいもの”ということです。 例えば、微妙な焦げ具合や、ソースに光が当たった時の照り具合など、お料理の細部を細かくチェックし、改良を重ねながら作っていきました。その精神は、今も職人たちに受け継がれています。私だけでなく、うちの従業員はみな、外食する時などに、あらゆる角度でお料理を見るのが癖になっていますよ」
最近では、こぼれてしまったラーメンや、フォークで持ち上げたスパゲティなど、遊び心のあるものも登場。わざわざ変わった食品サンプルを見るために、国の内外から多くの観光客が訪れている。
「食品サンプルの魅力は、いちばんおいしそうに見える瞬間を切り取って形にしているところ。“見ていると食べたくなります”と言われることも多いのですが、そんなふうに感じてもらった時は、“いいものができた!”と満足できますね」
食べられないのに、食欲をそそり、日本の食文化を支えてきた食品サンプル。今や日本を代表する文化の1つとして、世界中の人々に、認められている。
※女性セブン2018年3月29日・4月5日号