「この頃銀座通でみた或婦人の記憶画」と銘打って、横顔と、やや正面にちかい顔が掲げてある。昭和9年(一九三四)のもの。束髪のモダンガールとも見えるが、同時に雪岱自身が注解しているとおり「極めて古風な俤」もみてとれる。銀座の女と天平の女人とが意味深くかさなってくる。
雪岱は芝居の世界で舞台装置家として腕を振った人だった。目を瞠らせる挿画の切れ味は、人物の配置のあざやかさによることに気がつく。新聞の一葉の挿絵にも、あきらかに舞台装置家の目がはたらいていた。それにしても、別のフシギが湧いてくるのだが、ほぼ八〇年も前の書きものと挿画なのに、それがこんなにみずみずしいのはどうしてだろう?
※週刊ポスト2018年4月6日号