戦後間もない昭和30年代の学校の風景を撮り続けた女性写真家・齋藤利江氏が、写真とともに当時の様子を振り返る。
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これらの写真は昭和30年代、私が10代の時に撮影したものです。写真好きだった父の影響で中学生の頃から写真に夢中になり、地元・群馬県桐生市の保育園や学校などに忍び込んで撮影していました。作品は数々の賞をいただき、将来はプロの写真家を目指していましたが、17歳の頃に父が病に倒れ、写真家を断念。20歳で結婚し、家計を支えるために夫とカメラ店を始めました。
18年前、60歳の誕生日に大きな転機が訪れます。父の17回忌が終わり遺品を整理していた時に、「利江のネガ」と書かれたクッキーの缶が出てきたのです。当時はまだ女性の写真家は珍しく、写真家になることに猛反対していた父にネガはすべて捨てられたと思っていました。懐かしいネガと40年ぶりに再会し、大切に保存してくれた父の愛情に触れ、感激で涙が止まりませんでした。
この写真をきっかけに、還暦にして「写真家になる」という夢が再び動き出します。地元で開催した写真展が評価され、東京・銀座のニコンサロンで個展を開くことになり、これがNHKにも取り上げられ、瞬く間に写真家としての道が開かれていったのです。
昭和30年代の日本は高度成長期に向かい、豊かではないけれど、活き活きとした人々の笑顔があふれていた時代。写真を通して当時のワクワク感を思い出していただけたら、嬉しいです。
●写真家・齋藤利江
◆これらの写真を収録した『三丁目写真館~昭和30年代の人・物・暮らし~』が小学館より発売中。発売を記念した写真展が東京・神保町「小学館本社エントランスギャラリー」にて5月末日まで開催中(9時~19時30分。土日祝除く。入場無料)のほか、写真家・齋藤利江さんの講演会『還暦から夢を叶えよう』が4月22日「小学館本社2階会場」にて開催。詳細はhttps://sho-cul.com/courses/detail/52まで
※週刊ポスト2018年4月20日号