一九六〇年代後半から七〇年代にかけては、演劇活動と並行して数多くのテレビドラマや映画にも出演。悪役としてインパクトを与え続けていた。
「テレビとか映画には、蜷川さんとやってる世界は持ち込みませんでした。でも、テレビの台本を見てると発見することがいっぱいあったの。今までなら児童劇団の経験があるから技術的に流してしまうところを、『あ、この男はこういう風に作ったら面白いな』とか。たとえば、実際の事件の犯人役をやる時なんかは裁判記録を読んで動機を調べたりね。それで気づいたことを監督に相談せずにパッとやる。
『なんだ、それ』とか言われたりしたけど、『こうじゃなきゃいけない』というのをやってみせていたんですよ。演劇に比重があったから、『嫌なら降ろしてください』という気持ちでした。それに説得力があったから、認めてもらえたんだと思います。奇をてらってそうしてるんじゃなくて、『これが事実なんだから』と思ってやってましたから。
なぜそのセリフを吐いたのか。その背景の本質を探っていくのが役者の仕事だと思っています。なぜここで『あなたが好きです』と言ったのか。なぜ『会社に忠誠を誓います』と言ったのか。その言葉の上っ面だけでなく、どうしてもそれを言わないといけなかった裏打ちをしてあげないと。そこを身体化して技術で表現して、そいつの人間を保証する。そこが面白いんですよね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2018年5月4・11日号