4月に改訂された食物繊維の目標摂取量。いま、腸内環境に注目が集まっている。が、食物繊維以外にも“とある菌”が健全な腸に必要不可欠であるようだ──。
最近、どうにも腸の調子が悪い。便秘ぎみだし、お腹がいつもゴロゴロしている気がして、気分がアガらない。そんな時、ふとネットを見ていたら、今年の4月から「食物繊維」の目標摂取量が一部引き上げられた、というニュースが目に飛び込んできた。
食物繊維は、便秘の予防や改善にいいと聞く。野菜やくだもの、穀物類に多く含まれているというが、実際、何をどのくらい食べるのがベストなのだろうか。そもそも、推奨量の食物繊維をとりさえすれば、お腹の調子は整うのだろうか。
これまで15,000人以上の腸内環境を調べてきた“腸と免疫のエキスパート”國澤純先生(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 副所長)にうかがうと、食物繊維を活かし、健全な腸内環境を保つためには、“とある菌”の存在が必要不可欠であることが明らかになった──。
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日本人は食物繊維が足りていない!
食物繊維はその昔、「ヒトが消化できない食品成分ということで、“食べ物の残りカス”や“ウンチのかさ増し”など、ひどい言われ方をされていた」のだという。しかしこの飽食の時代、見方が変わってきたようだ。
「最近では、腸内細菌が『短鎖脂肪酸』という有用物質を作るためのエサとして食物繊維が使われていることがわかり、摂取の重要性が見直されてきたのです。短鎖脂肪酸には、代謝を促進する、排便を促す、脂肪の蓄積を抑えるなどの重要なはたらきがあり、腸内で継続的に作り出していくことが、健康の維持にはとても大切なんです」(國澤先生・以下同)
ところが、日本人の食物繊維の摂取量は、「おそらく終戦直後よりも現代のほうが減ってきている」と國澤先生は危惧する。そんななかで、2025年4月、厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」が5年ぶりに改訂。いま、食物繊維の重要性に改めて注目が集まっているのだ。
「私たちの調査では、1日の平均摂取量が12〜15グラムほどの人も少なくありません。WHOが定める世界の推奨摂取量は1日25グラム以上ですから、理想とは大きな乖離があります。食生活がかわり、大豆や野菜などの摂取量が減ったことが要因の一つだと考えられています。また、一人暮らしの方ですと、自分のために何品も準備するのが面倒で、食物繊維を含む食材が不足しがちになるかもしれません。ですから、世代を問わず、意識的に摂取していかなければなりません」
では、食物繊維を多く含む食材にはどんなものがあるのか。國澤先生によれば、野菜やきのこ、くだもの、穀類など、さまざまな食材に含まれている。
「気をつけなければならないのは、特定のものばかり食べないようにすることです。腸内細菌は1000種類程度いると言われていますが、それぞれ“好き嫌い”があるため、偏った食材から食物繊維を摂取していると、それを好む細菌ばかりが増えてしまいます。腸内環境をバランスよく保つためにも、食物繊維はさまざまな食材からとり入れることが肝心です」
腸内環境を整える“菌のリレー”とは?
つまりは、食物繊維の「量」と「種類」の問題をクリアすれば、快“腸”な生活を送れるということか。ならば話が早い……と思いきや、「健康を増進するには、それだけでは足りません」と國澤先生は言う。
「食物繊維を分解して短鎖脂肪酸を作るには、腸内で“菌のリレー”が行われる必要があります。これがうまくいっていないと、食物繊維をたくさんとっても、腸内環境が改善するどころか、かえって便秘がひどくなる、太ってしまうなどの弊害が生じる可能性があります」
なんともショッキングな事実である。この“菌のリレー”とは、いったい何なのだろうか。
腸内での“菌のリレー”を整えるのが大切! 第2走者のビフィズス菌は「決定的に大事な役割を担っています」(國澤先生)
「一例として、腸内細菌は、短鎖脂肪酸である『酪酸』を作り出すというゴールに向かって、単独ではなく、“分業制”で動いています。その様子を例えたものが“菌のリレー”です。
第1走者となるのは、納豆菌に代表される『糖化菌』。食材から摂取した食物繊維をエサにして、腸内で『糖』を作り出します。続いて、第2走者は『ビフィズス菌』が代表格。糖をエサにエネルギーを作る過程で、『酢酸(短鎖脂肪酸)』や『乳酸』を生み出します。そして、第3走者を担う代表選手が『酪酸菌』。これが酢酸を食べることで、『酪酸(短鎖脂肪酸)』などを作るのです」
こうしてバトンが最後までつながることで、腸内環境が整っていくという。しかし、逆にリレーが中断してしまうと……。
リレーが中断してしまうと、「糖が身体にたまり、どんどん太っていってしまう可能性があります」(國澤先生)
「例えば、糖が作られてもそれを食べる菌がいなければ、糖が身体にたまり、どんどん太っていってしまう可能性があります。また、第3走者も、そのエサとなる物質がないと働くことができなくなってしまいます。短鎖脂肪酸は食品から摂取したとしても、大抵は小腸で吸収されてしまうため、菌のリレーを自分の大腸内でいかに働かせるかが大事になってきます。
ですから、リレーをつなぐ第2走者は、決定的に大事な役割を担っています。特に、ビフィズス菌は、乳酸菌に加えて酢酸を生み出すうえに、酪酸菌と同じく大腸に多くすんでいるという特徴があります。菌のリレーを成立させるために、なくてはならない存在と言えるでしょう」
「ビフィズス菌入りヨーグルト」は選び方が大切
「ビフィズス菌入りヨーグルト」は選び方が大切
そうとわかれば、ビフィズス菌を補える食材をとりたいところだ。國澤先生は、その筆頭として「ヨーグルト」を挙げるが、どのヨーグルトでもいいというワケではなさそうだ。
「実はビフィズス菌が含まれているヨーグルトって、意外と少ないんです。パッケージを見れば大抵わかりやすく表記されているので、よく見て選ぶことが大切です。
先ほど、ビフィズス菌は大腸にすんでいると言いましたが、それは大腸が基本的に酸素のない環境だから。ビフィズス菌は、酸素があるところではほとんど生きていけないんです。そのため製品に入れる際には、特別な加工をする必要があります。ゆえに、どんな製品からもとれるというものではないんですよ」
ビフィズス菌はもともと日本人に多く見られる腸内細菌であり、特に赤ちゃんだと多い子で100%近くになるという。しかし、成人の平均は10%ほど。加齢とともに顕著に減少するうえ、食生活や生活習慣の影響も受けてしまうそうだ。
「ビフィズス菌の割合が50%を超える人もいる反面、1%に満たない人が1/3ほどいると言われています。私自身も、検査で調べたところ、腸内にはわずか0.1%ほどしかいませんでした。そこで、意識してビフィズス菌を摂取したところ、お通じもよくなったと効果を実感しています」
買い物では“菌のリレー”を想像して
買い物では“菌のリレー”を想像して
ビフィズス菌入りヨーグルトを食べるタイミングについては、「朝、昼、夜といつでもいい」が、とにかく大切なのは「すぐにやめずに“継続的に摂取すること”」。「腸活は死ぬまで長く続けることが大事。気軽に継続できるサイクルを生み出せるかがポイントです」と、ご自身の食習慣を語ってくれた。
「うちのお味噌汁は、冷蔵庫にあるものを日替わりで入れる“具だくさん汁”なんです。夜に作って、翌日の朝も食べることで、1日2食はいろんな食材から食物繊維を摂取できます。そこにビフィズス菌入りのヨーグルトなど、手のかからない“菌食品”をプラスしています。
買い物に行った際、昨日は『第1走者をとったから、今日は第2走者を食べようかな』などと“菌のリレー”を思い浮かべて食材を選んでみるだけでも、続けるうちにお腹の調子が変わってくると思います。日々のちょっとした心がけが、一生の健康につながる基盤を築いてくれるはずです」
“頑張らなくていい腸活”──さっそく始めてみようじゃないか。勇んでスーパーに向かうと、アボカド、キウイ、ビフィズス菌入りヨーグルト……気づけば買い物カゴは、目が合った腸内ランナーやそのエサたちであふれていた。
「くれぐれも、“量と種類はバランスよく”、ということを、お忘れなく!」
これまで9000人以上の腸内環境を調べてきた“腸と免疫のエキスパート”國澤純先生
◆プロフィール
國澤純(くにさわ・じゅん)/国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 副所長、ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長を併任。薬学博士。大阪大学薬学部卒業後、米国カリフォルニア大学バークレー校へ留学。東京大学医科学研究所准教授などを経て2024年から現職。東京大学の客員教授や大阪大学の招へい教授なども兼任。著書に『善玉酵素で腸内革命』(主婦と生活社)や『9000人を調べて分かった腸のすごい世界』(日経BP)がある。
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取材協力/「大腸劣化」対策委員会