2013年5月の夜ノ森駅の様子。手入れされていないがツツジが咲いている。


 夜ノ森駅にツツジが植えられるようになったのは、戦前の1939年にまで遡る。後に町長まで務める半谷六郎は、東京で生活していた際に駒込駅のツツジを目にし、「夜ノ森駅にもツツジを植えたらいいのではないか?」と思いつく。

 半谷は植木で有名な埼玉県南足立郡安行(現・川口市)に足を運び、“おおむらさき”“さつき”“きりしま”の3品種を購入。それらを夜ノ森に持ち帰った。地元住民たちも半谷に協力する。持ち帰った約4000株のツツジは、住民総出で夜ノ森駅の土手に植えられた。

 その後も、地元住民たちは機会あるごとに夜ノ森駅の周辺にツツジを増やしていく。1946年には1000株を追加植樹し、ツツジが咲く範囲は拡大した。

 そして、次第に夜ノ森駅のツツジは評判になっていく。ツツジを見に駅を訪れる行楽客も現れるようになり、駅職員も自然とツツジの手入れに励むようになったという。

 ツツジのほかにも、夜ノ森には有名な花がある。それが、夜ノ森の街全体に植樹されているサクラだ。

 原発事故後、夜ノ森一帯は立ち入りを禁止された。しかし、政府は取材名目で報道陣に夜ノ森への立ち入りを一時的に許可する。報道陣が立ち入ったのがサクラのシーズンだったこともあり、美しい桜並木は各紙の一面を飾った。こうした影響もあり、“サクラで有名な夜ノ森”というイメージは、強くなった。

 今年4月、まだ人の戻りが少ない夜ノ森の街は淡いピンク色に包まれていた。その片隅で、夜ノ森を元気づけたツツジが次々と伐採されていた。

 2020年に避難指示が解除されて、常磐線が全線再開する。また、2021年には役目を終えて復興庁が閉庁する予定だ。福島が復興することは喜ばしいことだが、そこが復興のゴールではない。

 夜ノ森駅のツツジが戻るのは、さらにその先になる。常磐線が真の復興を果たしたと言えるのは、夜ノ森駅が満開のツツジで覆われたときになるだろう。

 間もなく、ツツジの季節を迎える。

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