東京都写真美術館の学芸員として、彼女が企画した展覧会「私という未知へ向かって 現代女性セルフ・ポートレイト」(九一年)は、男性目線による既存の女性イメージを解体させる強いメッセージを放ち、大きな反響を呼んだ。
男性は自分の目で世界を見ており、その目を女性にも向ける。しかし女性は、自分の目とともに、男性の目も意識せざるを得ない。「あるがままの自分」と「あるべき自分」の間にギャップが生じる。これはアートに限ったことではないのは言うまでもない。
さらには、老い、病、エイズ、人種、階級、家族、戦後日本、身体……。多岐にわたる表現を展開してきたアーティストたちを取り上げ、彼らが切実な思いに突き動かされてきたことを多数の図版とともに丹念に読み解いていく。著者の約三十年の活動の軌跡ともいえる本書は圧巻だ。この世界を生きる男女、そして写真への愛しいまなざしに溢れている。
※週刊ポスト2018年5月18日号