「絶好調。必ず勝ちます」なんて竹を割ったような強気のコメントはまず出ない。よくあるのが「ここを目標にしてきた」。GI出走馬にとっては当たり前のことですが、重賞や特別でも言い訳の余地の少ないものだと思います。
逆に、弱気一辺倒のコメントもある。「元気が出てきたけど、一変まではどうか」「良化途上。一度使ってから」「メンバーが揃ったけど、一歩でも前進を」などなど。こういうコメントこそ検証するべきで、それなのに3着内に入ったら、なにが成功要因だったのかを考えたい。
それこそ展開に恵まれたのか、ジョッキーが巧く乗ったのか。はたまた実は馬の出来に相当の自信があったのか。弱気コメントばかりを出しつつ良い成績を上げる先生だと、ファンからはウソつき呼ばわりされてしまいそうです。レース前のコメントとレース結果、さらにレース後のコメントを系統的に記録してみると、どういうことになっているか興味があります。
前回にも触れましたが、やはり関係者は馬に期待したいのです。たとえ芳しくない馬でも、いつかは走ってくれると思いたい。だから、最初からある程度の予防線を張ってタラレバの多いコメントになるのでしょう。調教師の本音としては、おおむね次のような感じなのだと思います。
「やれることはやった。あとは信じるのみ」―人事を尽くして天命を待つ。しかしこの「天命」の部分にタラレバ要素が多くなる。やはり競馬は分からないことだらけです。
●すみい・かつひこ／1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後17年で中央GI勝利数24は歴代3位、現役では2位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。本シリーズをまとめた『競馬感性の法則』（小学館新書）が発売中。2021年2月で引退することを発表している。
※週刊ポスト2018年5月18日号
