「神代さんとの最初は東映の『地獄』で、東映との仲介役みたいな役割で俺を呼んでくれたんですよ。よく飲んでスケベ話して。そんな時に『こんど中上健次の『赫髪』をやる』っていうんだ。俺は中上さんのファンだから『ぜひ出させてください』と言ったんだけど、よく考えたらあの役は無口で立派な肉体の、木漏れ日を浴びて汗が光るような人がいいんだよね。俺みたいなシティボーイには無理だと思ったんだ。監督にそのことを言ったら『お前は十分にスケベだから大丈夫だ』って。それで出ることにしました。
なぜこの女に惹かれるのかをずっと考えました。愛する、でもない。恋する、でもない。自分に必要な女として、どこかで意識下で求めている理想の女性像を発見していく──そういう感じでやっていましたね。あれは宮下順子が三十歳の時で、裸はこれで終わりという作品でした。だから一緒にいい作品にしようということで、こっちも少し力が入っていました。
彼女との濡れ場では、神代さんに『蓮司、ここは他に何か手はないか。これだけだと「ただやってるだけ」になっちゃう』と言われたんで、いろいろ考えてアイデアを出しました。そしたら『お前はどうでもいいよ、お前なんか見てないから』って。俺に仕掛けさせておいて、それにリアクションする宮下順子を撮るんですよ。そこが、上手い。
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2018年5月18日号