鳥取県東部地方は、“因幡国”や“因州”と呼ばれ、古くから和紙づくりが盛んな場所だ。その起源は不明だが、少なくとも1300年近い歴史があると、『鳥取市あおや和紙工房』館長の山田正年さんは言う。
「奈良の正倉院で、8世紀半ばに因幡国で作られたとされる和紙に書かれた文章が見つかり、このことから奈良時代には、因州和紙が存在したといわれています。平安時代に編集された法令集『延喜式』にも、因幡国から朝廷に紙が献上された記録が残っています」(山田さん・以下同)
山々に囲まれ、豊富な水源にも恵まれたこの地方は、原料のコウゾやミツマタなども採れ、江戸時代には庶民用の紙も盛んに作られるように。
「戦後になるとコピー機などが登場し、生活様式の変化で和紙は打撃を受けます。しかし、因州和紙は手漉きにこだわり、高級書道用紙や工芸紙、染色紙を開発。大正時代には、和傘にも使われるなど、先人たちが、時代のニーズに合わせた使い方を考案してきたからこそ、今でも全国有数の生産量を誇っているのだと思います」
丈夫で色鮮やかな因州和紙は、ランプシェードや人形など多種多様な工芸品にも使われ、今では現代アートの作家にも受け継がれている。県内で、因州和紙を使ったアクセサリー制作をしている和紙コーディネーターの諸吉陽子さんもその1人だ。
「因州和紙は、手で簡単に破れないほど強度が高いのに、軽いので、イヤリングやピアスに適しています。また、職人さんによって色合いや光沢も異なり、同じ1枚の紙でも、使う部分によって色のグラデーションが違うので、同じものが作れない。それも魅力です」(諸吉さん)
耳元で、少しの風でさらさら揺れる和紙の音がとても心地よく感じられる、風流なイヤリング。世代を問わず、女性たちに愛されている。
※女性セブン2018年5月31日号