ワンマンライブ(2017年)での姫乃たまさん
「ファンを亡くした気持ち」として記されたこのブログは、多くの地下アイドルにとって、また、有坂さんの1年後に活動を始めた私にとっても、いつか必ず起きるはずの、人ごととは思えない内容でした。地下アイドルとファンはたいてい、お互いに本名も住所も知らないまま、会社の同僚や、友人、もしかしたら家族よりも密接に繋がっているものです。
あれから約1ヶ月が経ち、追悼ライブの様子がフジテレビの『Mr.サンデー』で特集されると、インターネットを中心に様々な反響が見られました。地下アイドルとして活動している人たちは、少なからず共感する部分があったと思います。私自身も、ずっと応援してくれているファンの人が突然姿を見せなくなったら、いてもたってもいられなくなるはずです。実際に自宅を探して訪ね歩いた有坂さんは、ファンを持つ全ての人たちに行動する姿を示してくれました。何より、いざという時に向けて、心構えが必要であることも教えてくれたのです。
ほとんどの地下アイドルは、デビューして3年以内に辞めていきます。しかし、ファンのほうは、ほかのアイドルのファンになったり、ファン同士のコミュニティの居心地がよかったりして、滅多にファンを辞めることがありません。アイドルが引退することを「卒業」と呼ぶのに対して、アイドルファンを辞めることは「他界」と呼ばれるほど難易度が高いのです。そのため、特別な理由も思い当たらないのに、現場(ライブ)に姿を見せなくなったファンがいれば、地下アイドルは自然と無事を確認したくなります。
特に有坂さんのように長く活動を続けていると、ファンもその年数だけ高齢になっているはずです。私も活動を始めた頃は30~40代だった人たちが、十年経ってもファンを続けてくれているので、いまでは40~50代になっています。
地下アイドルのファンは、定期的に非日常空間であるライブ会場に通っているので、年齢のわりにみんな若々しくて元気な印象です。しかし最近は、ファンと話す内容も変わってきていて、親の介護を心配する声も聞くようになりました。長く付き合えるのが地下アイドルとファンの魅力である一方、年齢による様々な変化は避けられません。
昨年、『職業としての地下アイドル』という本を書くにあたって、現役地下アイドルとファンの人たちにアンケートを実施しましたが、ファンのほとんどは独身の男性でした。自分のファンについても、思い返すと30代までは「すぐに結婚するつもりはないけれど、なんとかなるだろう」と元気だったのが、40代になって「結婚はあきらめたから」と宣言した途端、逆にガチ恋をこじらせてしまった例もあります。ひとりひとりの人生を全てどうにかすることはできなくても、自分がどうしたらよかったのか考えるきっかけになりました。