「たまちゃん」「ハーイ!」のやりとりで独特の穏やかな開放感が広がる
よく、アイドルを応援するのには、恋愛のような楽しみがあるのではないかと言われます。実際にそういう側面が全くないわけではなく、私自身も恋するような楽しい気持ちを忘れないでいてもらうのが、アイドルらしいあり方だと思っていました。
しかし一年くらい前から、恋愛感情よりも単に「癒やし」を与えることが、アイドルの仕事ではないかと思うようになったのです。それ以降は、自分の中で「バブみ」をテーマにして活動してきました。
「バブみ」とは、年下の女性に対して包容力などの母性を見出した時に使われるネットスラングです。通常は姉や母親のように年上の女性に対して感じる母性ですが、「バブみ」のポイントは年下の女性に感じるところで、地下アイドルとファンのケースに当てはまります。
きっかけは、一昨年にシンガーソングライターの町あかりさんとアルバム『もしもし、今日はどうだった』を制作したことです。アルバム全体のコンセプトを決めるにあたって、すでに提供してもらっていた『たまちゃん!ハーイ』という曲を軸にしました。
この曲には、私の呼びかけに対して、お客さんが手を挙げて「ハーイ!」と答えるやりとりが何度もでてきます。ライブ中にお客さんの様子をみていると、最初は恥ずかしそうにしていた人も、無邪気に「ハーイ!」と全力で答えているうちに、大人から子どもに返ったような独特の穏やかな開放感を得られているようです。それまで自分では気づいていなかった「バブみ」の重要性を、町さんには見抜かれていたのでしょう。いまではファンの人に「癒やされた」と言われると、きちんと職務をまっとうした気持ちになります。これのすごいところは、ファンが癒されると、私まで癒されることです。これでさらに活動が長く続けられます。
この間、私よりもさらに十年ほど長く活動している方から、ファンの人たちの共同墓地を作って、いずれは自分たちもそこに入りたいと話すのを聞きました。前述のようにファンの人は独身の割合が高く、多くの時間とお金を日々アイドルに割いています。しかし、趣味で繋がっているファン同士の仲の良さや、趣味があることで楽しそうに生活している姿を見せてもらっているので、ファンの人たちに介護が必要な年齢になっても、何かしらの場を提供できる人でありたいというのが当面の目標です。もしかしたら地下アイドルを自称している時よりも、これからのアイドル業に必要な目標を持てているかもと、ひっそり思っています。
●ひめの たま/1993年2月12日、東京生まれ。16才よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。
