国内

認知症の母 怒らせたらまずそうなお姉さんの下着を…

認知症母が脱衣所でトラブルに遭遇(写真/アフロ)

 認知症の母(83才)の介護をするN記者(54才・女性)。昔から入浴好きの母を連れて、温泉や公共の入浴施設へ行くものの、認知症によるトラブルもあるという…。

 * * *
「どんなにつらい悩みも、お湯に浸かると楽になるね」

 子供の頃、ふぅ…と湯船に浸かりながら、母は満足そうに言っていた。たしかに、温かいお湯に身を任せると、張り詰めた気持ちがほぐれ、不思議な浮遊感とともに気が楽になる。自分が年を追うごとに、あの言葉の意味をしみじみ実感する。

 老人ホームを探したときも、施設の規定で週2回しか入浴できないことに難色を示した母を見て、「入浴のことだけは譲れないので他を探します」と、思わず断った。そして今では私も凹んだとき、まじないのように風呂を沸かす。

 そんなわけで母との旅行はもっぱら温泉。スーパー銭湯のようなところでも母は喜ぶ。

 ただ、脱衣場が鬼門だ。狭い空間にたくさんの人がいて、脱いだり着たりボ~ッとしたり。どうもこの混とんとした雰囲気が、認知症の母を混乱させるようなのだ。脱ぐときは私がリードするのでまだよいが、湯から上がると途端に不安定になる。

 母は最近でこそ、私には「ママは認知症だからよろしくね」などと素直に言うが、外に対しては徹底して認知症を隠す。普段はヘルパーさんなど、理解して守ってくれる人に囲まれているが、旅先では完全に“アウェー”なのだ。

 この正月に行った大型旅館の大浴場でのこと。母は温泉に浸かると気が大きくなるのか、気ままに湯を楽しむと、常に母をガードする私の隙をついてさっさと浴場から出て行ってしまった。

 案の定、母は自分のカゴがわからない。でもそれを大勢の人に悟られたくない。とはいえ全裸でウロウロするのも変だとわかっているので、思い切って目の前のカゴに手を伸ばしてみた…らしい。

「何よ! おばさん、あたしのなんですけど!?」

 嗚呼…この日は運が悪かった。大慌てで私が浴場から上がると、たぶん高齢者や認知症には無縁で興味もなさそうな、しかもちょっと強面の女性が声を上げていた。

 無造作な彼女のカゴの中はタオルの下に下着がはみ出していた。母はバスタオルを探しつつ、いつもの整頓癖にスイッチが入ってしまったのかも。しかし端から見れば母が下着に手を伸ばす格好に…。

「そんなに怒ることじゃないでしょ」と、心の中で思いながらも平謝り。説明しても仕方がない。母も、恥ずかしさと憔悴が入り交じった顔で、必死に謝っていた。

 こういう失敗によるストレスは、認知症を悪化させるとよくいわれる。だからわが家の旅行計画も、プライベートな貸し切り家族風呂にするとか、大型施設を避けるとか、改善の余地は大いにある。

 でも大きな湯船に浸かって知らない湯客に話しかけ、楽しそうに笑う母を見ていると、多少のリスクなどザーッとお湯に流せるような気もしてくる。トラブルやストレスに見舞われるのも、自由を謳歌している証ではないか。

 心配性で、小さなことですぐ悩む私にそう思わせるのも、温泉の効用かもしれない。

※女性セブン2018年6月21日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
犯人の顔はなぜ危険人物に見えるのか(写真提供/イメージマート)
元刑事が語る“被疑者の顔” 「殺人事件を起こした犯人は”独特の目“をしているからすぐにわかる」その顔つきが変わる瞬間
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン