他の厩舎のことはわかりませんが、私はトップジョッキーには乗り方の指示をしません。一方で発展途上の若手には、短く指示を出すこともある。思い切った乗り方をしていい、と。
チャンスを与えていると同時に、厳しい目で見ています。その人間の「思い切った」というものがどの程度なのか。おそらく性格的なものが大きいと思いますが、レースでは如実にわかります。
たとえば、あるレースで人気馬にはトップジョッキーが跨っている。「いつまでもルメールやデムーロにリーディングを走られてたまるか!」という気概が日本人ジョッキーにも当然あるはずですが、性格的な濃淡は出る。「いっちょ、食ってやるか!」と開き直れるタイプがいい。「メンバー的に、ちょっと厳しいかな。掲示板に載れば……」などと目線を下げてしまえば、鞍上の動きは変わってきます。
前にも書きましたが、レース中に「ここが勝負どころだ!」などと思っているようではまだまだ。脳がゴーサインを出す前に身体が動いていなければ、コンマ数秒、結果が変わってくる。それができるジョッキーの胸には、「絶対に勝つ!」という強い思いがあるはず。調教師はそこには踏み込めない。コンマ数秒の差は、ジョッキーのメンタルの差であることも少なくないのです。
昔は癖馬、暴れ馬を巧みに乗りこなすスペシャリストがいました「こういう馬なら〇〇騎手」という名コンビがいて、ファンにも知れ渡っていた。スペシャリスト気質のジョッキーは今もいますが、暴れ馬自体は調教方法や外厩制度の進歩などで少なくなった。