本人確認についていえば、マンションなどの賃貸物件は、入居の際には顔が見える以前に住民票や収入証明から連帯保証人に至るまで相応の審査がなされるし、昨今では保証会社利用が前提というケースも多い。
外国人であっても、在留カードをはじめ日本人の連帯保証人など、よりハードルが高いことは一般的。気軽に入居できる施設としてはウィークリーマンションも知られるが、簡易的とはいえ審査を要する施設は多い。いずれにしても匿名性を求める犯罪者からすると居住施設を敬遠することは想像に難くない。
その点、ホテルや旅館といった宿泊施設はどうだろうか。対面し直筆で記載させる宿泊カードはもとより、ホスピタリティやおもてなしと言われる“顔の見える”対面接客を重視する業種だけに、やはり匿名性を重視する者からすれば敬遠したくなるだろう。施設内で多くのスタッフやゲストに接するシーンも多いことや、そもそも長期利用であるほど匿名性は薄れる。
宿泊施設と匿名性といえば、ラブホテル(レジャーホテル)も想起される。筆者は同様のホテルも評論対象として取材しているが、対面接客がない業態だけに、プライバシー性の尊重とともに昨今の徹底したセキュリティへの注力には驚かされる。
民泊新法ではITによる無人チェックインを可能としたが、そもそも無人チェックインの十八番といえばレジャーホテルだ。設備や態様については元々相当ハードルが高い旧旅館業法(ホテル営業・旅館営業)で認可された宿泊施設だけに、民泊とは一線を画する。
民泊新法では、家主居住型(ホームステイ型)と家主不在型(ホスト不在型)に峻別されている。家主居住型(ホームステイ型)であれば、それなりに顔の見える民泊といえるだろうが、一方の家主不在型(ホスト不在型)では、住宅宿泊管理業者への管理委託が条件となる。
民泊は目下注目される宿泊業態だけに、ホストやゲストはもとより周辺住民をはじめ国民全体の関心事にもなっている。未届けの民泊は相当リスキーな営業であることはもちろん、合法であればなおさら“顔の見える合法民泊”は肝要であり、民泊が市民権を得るための必須条件といえるだろう。
●文/瀧澤信秋(ホテル評論家)