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行き過ぎた日本的な「潔癖主義」は生産性を低下させるとの声

頻繁に行われる謝罪会見ではその対応も厳しく見られる

 近ごろ、個人や組織に厳しく求められる規律遵守とリスク管理。程度の差に関係なく、ひとたび不祥事が公にされると、責任追及や厳罰を求める声が瞬く間に広がる恐れがあるからだ。しかし、こうした寛容さを失った社会に警鐘を鳴らすのは、組織学が専門の同志社大学政策学部教授の太田肇氏だ。

 * * *
 弁当を買いに行くため3分間の「中抜け」を繰り返していた神戸市職員が、減給の処分を受けた。指示に反抗する乗客と言い争ったバスの運転手も処分されるという。つくばエクスプレスを運行する会社は、定刻の20秒前に発車したとしてホームページに謝罪文を載せた──。いったいどこまで細かくなるのか。

 こうした重箱の隅をつつくような管理は、欧米では「マイクロマネジメント」と呼ばれ、しばしば非効率、非人間的な経営の代名詞となる。実際、上記の事例も海外では揶揄する声があがっているそうだ。

 わが国では昨今、何かにつけ寛容さを失い、潔癖を求める風潮が広がっている。かつては大学生になると当たり前のようにタバコを吸い、酒を飲んだものだが、いまなら場合によっては本人や責任者が処分されるなど、大事になりかねない。

 芸能人やスポーツ選手といった有名人なら、公にされた時点で即アウトだ。たとえ記者会見を開いて謝罪しても、ちょっとした落ち度があるとワイドショーで袋だたきにされるし、長期謹慎も余儀なくされる。

 息苦しい世の中になったものだ。

◆「潔癖」の代償

 そもそも「潔癖」といえば好ましい印象を与えるかもしれないが、もともと「癖」(くせ)であり、必ずしも美徳ではないということを知っておく必要がある。

 企業でいえば、食品にちょっとした異物が入っていただけで、たとえ健康や衛生に問題がないとわかっていても、イメージ悪化を恐れた会社は何百万、何千万という商品を自主回収する。商品にゴキブリが混入していたとネットに投稿され、生産販売中止に追い込まれたケースもある。悪評の拡散を恐れる会社の弱みにつけ込んで、店員に土下座を要求したり、商品を脅し取ったりする事件もあった。

 日本企業が誇る徹底した品質管理も、良い面ばかりではない。日本のメーカーが海外の企業から部品を調達する際、一つでも「不良品」が見つかると全品が送り返されることがある。しかも不良品のなかには、性能に支障のない程度の小さな傷があったり、バリがついていたりする程度のものも多いといわれる。そうした品質基準の差が原因で、外国企業との間で摩擦が生じる場合も少なくないそうだ。

 問題は、高い基準とコストとの兼ね合いである。製品の納期にしても日本企業は厳しいことで知られているが、製品によっては80点の水準ですむところを95点まで引き上げるとコストが2倍かかるという。当然、それは国際競争においてハンディとなる。

 そして、厳しすぎる基準は別の問題にまで波及する。

 最近、大企業で品質検査の手抜きやデータの改ざんといった不祥事があいついでいるが、背景には必要以上に厳しい検査基準があるとささやかれている。基準が現実の必要性からかけ離れていると現場で受け止められた場合、遵法意識そのものが薄れてしまう。それがエスカレートすると、大きな事故につながりかねない。

 もちろん製品によっては高い品質が求められるし、生命や健康に関わる場合には完璧な管理が求められる。しかし、いくら「完璧」を目指しても人間のすることには限界がある。むしろ完璧が求められるような仕事はAIやIoTに任せ、人間には人間特有の能力を発揮してもらうよう役割分担を進めるほうが合理的ではなかろうか。

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