9人の投票者が、A、B、Cの3人の候補者に投票して、1人の勝利者を決めるものとしよう。各投票者は、つぎのように、候補者に対して順位付けをしているとする。
【投票者1】第1位=A、第2位=C、第3位=B
【投票者2】第1位=A、第2位=C、第3位=B
【投票者3】第1位=A、第2位=C、第3位=B
【投票者4】第1位=A、第2位=C、第3位=B
【投票者5】第1位=B、第2位=A、第3位=C
【投票者6】第1位=B、第2位=C、第3位=A
【投票者7】第1位=B、第2位=C、第3位=A
【投票者8】第1位=C、第2位=B、第3位=A
【投票者9】第1位=C、第2位=B、第3位=A
シンプルな投票では、投票者は、第1位の候補者に投票する。このため、候補者Aが4票、Bが3票、Cが2票を獲得する。最多得票のAが、勝利者となる。単純でわかりやすい。
決選投票の場合はどうか。1回目はどの候補者も過半数に達しないので、上位2名の候補者による決選投票となる。1回目の投票で得票の多かった候補者AとBの2名での決選投票が行われる。
決選投票では、1回目にCに投票していた投票者8と9が、第2位の候補として、Bに投票する。この結果、候補者Aが4票、Bが5票となり、多数の票を集めたBが勝利する。最終的に過半数の支持を集めた候補者が勝利するため、納得的だ。
それでは、ボルダ投票ではどうだろうか。ボルダ投票の場合には、候補者ごとに点数の足し算をする。1位を3点、2位を2点、3位を1点としよう。この場合、点数の計算はつぎのようになる。
●候補者A は、18点(=3点×4人+2点×1人+1点×4人)
●候補者B は、17点(=3点×3人+2点×2人+1点×4人)
●候補者Cは、19点(=3点×2人+2点×6人+1点×1人)
この結果、候補者Cが最多得点を得て勝利者となる。総合的な幅広い支持を得た候補者が勝つ。
つまり、シンプルな投票なら候補者A、決選投票ならB、ボルダ投票ならC、と選挙方法によって、勝利者が変わってしまうのだ。
実は、この事象は「3人以上の候補者がいる場合に、多数決による選挙制度が必ずしもうまく機能しない事例」として社会科学では有名なものだ。多数決の仕組みには、このような課題があるということを知っておく必要があるかもしれない。
このように多数決は、意外と奥が深い。ある集団で何かの物事について話し合いをしたが、うまくまとまらず、多数決で決めることになったとしよう。
3つの多数決の方法のうち、どの方法をとるかを決めなくてはならない。多数決の方法をどうするかについて話し合いがうまくまとまらなければ、どの方法をとるかを多数決で決める必要が出てくる。
それでは、この多数決の方法を決めるための多数決は、どのように決めるべきか……。何か、果てしない感じで、頭がクラクラしてくるが、いかがだろうか。