パナソニックの家電部門を率いる社内分社、アプライアンス(AP)社の本間哲朗社長によれば、「ライバルがいなくなったのが最大の要因」だ。
この20年間、国内家電メーカーは苦戦続き。シャープと東芝の家電部門は外国企業傘下となり、日立も三菱電機も事業の選別を行った。今ではフルラインで家電を販売しているのはパナソニックだけとなった。松下幸之助は生前、「事業を成功させる秘訣は、成功するまで事業を続けること」と語っていたが、パナソニックの家電にそのまま当てはまる。
本間AP社社長がもうひとつの理由として挙げたのが、「事業部制の復活」だった。事業部が開発、製造、販売まで一気通貫でコントロールする事業部制は松下電器の象徴でもあったが、2代前の中村邦夫社長が、「破壊と創造」を掲げて廃止し、販売部門を独立させた。
しかし津賀社長は事業部制を復活させ、事業部長は製販連結で評価されるようになった。事業部長の権限が大きくなり、意思決定が現場に近くなったことで、市場の変化に素早く対応することが、シェア上昇に結び付いたというのである。
スピードアップは本間AP社社長が語る次のエピソードから明らかだ。
「以前は家電事業が本業ということもあり、販売にあたっては社長が出席する御前会議で最終的に判断していた。この会議の準備も大変だった。ところが今は、私のところですべて判断する」
これは、家電事業が本業でなくなった効能といっていい。今のところ、主力事業からの格下げは、社員の発奮材料となり、むしろプラスに作用している。
問題はこれからだ。今後、市場縮小が加速することは避けては通れない。しかも設備投資を抑えるなどのコスト削減は将来の芽を摘むことにもなりかねない。いまだにパナソニック製品の2割を販売する専門店(旧ナショナルショップ)の高齢化も進んでいる。製販それぞれで、時代は変わりつつある。家電のパナソニックも安閑とはしていられない。