芸能

芸歴29年、入船亭扇辰が『お初徳兵衛』で見せた円熟の境地

入船亭扇辰の魅力を解説

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、芸歴29年の入船亭扇辰が披露した、現代の観客が感情移入しやすい『お初徳兵衛』について解説する。

 * * *
 勘当された大店の若旦那が船頭になって大失敗する『船徳』は、初代古今亭志ん生(幕末期の名人)作の長編人情噺『お初徳兵衛浮名桟橋』の発端の部分を、明治時代に初代三遊亭圓遊が滑稽噺に改作したもの。「昭和の名人」五代目志ん生は『船徳』ではなく『お初徳兵衛』の発端を一席ものとして演じ、倅の十代目金原亭馬生がそれを継承した。

 その『お初徳兵衛』を入船亭扇辰が5月30日の独演会「噺小屋 皐月の独り看板」(国立演芸場)でネタ出ししたので聴きに行った。

『お初徳兵衛』は、現代では馬生門下の五街道雲助が細部に工夫を凝らし、より人情噺らしく磨き上げている。扇辰が演じた『お初徳兵衛』も雲助の型を踏襲したものだった。

 道楽が過ぎて勘当された徳兵衛が行き場を失って途方に暮れていると(この運びは『唐茄子屋政談』に似ている)、馴染みの船宿の親方に声を掛けられ、居候することに。

 実家が夫婦養子を迎えると聞いて「もう帰る場所がない」と船頭になる決意をする徳兵衛。志ん生・馬生親子はここで『船徳』にある「親方に呼ばれた船頭たちが早合点する」場面を入れて笑わせるが、雲助はそれを省いて人情噺のトーンを維持、『船徳』で描かれた「未熟な徳兵衛が2人連れを乗せて悪戦苦闘したエピソード」を、滑稽味を完全に抜いてサラリと紹介する。扇辰の落ち着いた佇まいと端正な口調が、こうした展開に実によく似合っている。

関連キーワード

トピックス

手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
『国宝』に出演する横浜流星(左)と吉沢亮
大ヒット映画『国宝』、劇中の濃密な描写は実在する? 隠し子、名跡継承、借金…もっと面白く楽しむための歌舞伎“元ネタ”事件簿
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン
山本アナ
「一石を投じたな…」参政党の“日本人ファースト”に対するTBS・山本恵里伽アナの発言はなぜ炎上したのか【フィフィ氏が指摘】
NEWSポストセブン
今年の夏ドラマは嵐のメンバーの主演作が揃っている
《嵐の夏がやってきた!》相葉雅紀、櫻井翔、松本潤の主演ドラマがスタート ラストスパートと言わんばかりに精力的に活動する嵐のメンバーたち、後輩との絡みも積極的に
女性セブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン