千葉県内のとある私立高校では、バスケ部顧問の笹川幸男教諭(仮名・40代)が「スポットクーラー」を私的に購入し体育館に設置した。夏の体育館内は45度を超えることもあるというから、バスケ部の生徒だけでなく、バレー部や卓球部の生徒も涼を求めてやってくる。他部の生徒からは「バスケ部はいいな」と羨ましがられていたが、ある日、バレー部、卓球部、バドミントン部らの顧問から「クーラーを撤去するように」と連名の書面を突き付けられた。
「平等ではない、私物を持ち込むな、そもそも電気代は学校が払っている……などと言われて、やむなく撤去しました。もっともそうな内容の書面でしたが、子供のことを一切考えていないことは明らかです。彼らは、部活動の時間はずっと体育館にいるわけではなく、数十分体育館に来て指導した後は、クーラーがばっちり効いた教務室で休んでいる。さらに驚くことに、バスケ部以外の生徒の親御さんからも“差別だ”と指摘されました。自分のお子さんなのに、心配ではないのか。みんなで我慢すれば乗り越えられる、といった精神論かもしれませんが、暑さは精神論でどうにかなるモノじゃないし、我慢すれば死ぬのです」(笹川教諭)
世界中で「猛暑」が観測されているが、原因は地球の温暖化以外に見当たらない、などとも議論されている。わが国では、再来年の夏にはオリンピックが開催される。近いところでは夏の甲子園大会だろうか。暑さを我慢し、克服することが「美徳」とされてきたかもしれないが、心頭滅却しようが、火が涼しいなんてことは絶対にない。何より子供たちの、人の命を第一に考えれば、これらの美徳なるものがいかに愚かで、バカげているかは容易に理解できるはずだが……。
「だれかが“もう止め!”と言えればいいのですが言えない。言える立場の人は現場を知らないし、東京五輪だって“暑さを克服しよう”などといっている政治家までいる。精神論の押し付けで、人の命がなくなったらどうするのか…。彼らにはそんな責任感はないのでしょうけど…」(松本教諭)
戦時下を彷彿とさせるような「炎天下の運動」強要。古い感覚に塗れた、これらを良しとする世界では、生徒は褒められようと懸命に努力をする。努力する姿は美しく、彼らの意気は高く評価されるべきだが、わざわざ灼熱の中でやらされる理由はないし、何より危険で、バカげた指導者の言いなりになって体を悪くしてしまえば、得られるものは何もない。