今年5月、スイス・バーゼルにある彼女の自宅を再訪した。
「会いたかったわ、ヨーイチ」
予想に反して、彼女は快く迎えてくれた。だが、顔色はさえない。聞くと昨年後半以降、精神的疲労を募らせているという。スイスは自殺幇助が法律で認められているわけではない。罪に問われないだけだ。世界中から患者が訪れる同団体を警察も黙認しづらくなったのだろう。彼女は、当局との摩擦が絶えないことを明かしてくれた。
件の104歳の科学者の自殺を幇助したのも彼女ではなく、新たに団体に加わった男性医師だった。
科学者は死に至る病を患っていたわけではなかったが、生き続けることに意味を見出していなかった。プライシックは、私に言った。
「末期(症状)でなくても、一定の年齢を超えた老人の抱く人生の質は、われわれとは全く違います」
彼女は変わっていなかった。さらに、「最近は日本人の登録も増えているわ」とさらりと言った。会員の安楽死が即座に決行されるわけではない。医師の診断書に加え、現地語での面接が必要で日本人にはハードルが高い。だが、スイスの別団体は2015年以降、日本人の自殺幇助が3件あったと発表している。詳細は不明だが、海を渡る日本人志願者も珍しくはないのだろう。次回、会った際に彼女から決行の事実を伝えられたとしても驚かない。