「事前に旅行日程を決めて予約を取って、というのが時々煩わしいことがあるでしょう。思い立った日に旅行に行きたいと。『BEB』では、ホテルの中心に『TAMARIBA(たまりば)』というテラスを設け、周りをカフェ、ラウンジ、ライブラリーが囲むしつらえにします。そのあたり一帯で、緩く過ごしてほしい。『たまりば』に食べ物を持ち込んでもOK、パジャマ姿でリラックスしてもOK、寝転がってもOK、楽器演奏などもOK。いわば友人の家にいる感覚です。
このほか、寝坊してチェックアウトに遅れたというのもOK、アクティビティも予約なしで、その日の気分やノリでOK、客室は畳張りなので靴を脱いでリラックスでOK、近くの『星野温泉 トンボの湯』も何度でも無料で入ってOK」
気になる宿泊費は基本、1室あたり1万8000円から2万8000円のレンジだが、
「20代の方だけでなく、35歳以下まで対象を広げて1万6000円まで頑張りました。繁忙期の盆暮れ正月やゴールデンウィークでもこの値段です。なので、3名でのグループ利用なら1人5000円ちょっと。安いプランを探したり、早い段階で予約を入れたりの煩わしさがありません。すべてノリでOKです」(請川氏)。
これまでの宿泊施設の常識をことごとく外したテストマーケティングだが、それだけ星野社長が抱く、若年層の“旅行離れ”への危機感が強いということだろう。同氏は発表会でこうも発言していた。
「値ごろ感のある価格で提供し、若者たちにも当社のファンになってほしい。そこで、まず『BEB』でトライアルをしないと(これなら泊まってもらえるという)確信が持てない部分がある。
だから我々の本拠地である軽井沢の敷地内に作り、こういうアプローチをすれば若者が動いてくれたという実績を作りたいのです。20代から30代前半をターゲットにした施設、というメッセージを強く出したいと思っており、開業して実績さえ上がれば横展開で多店舗化のチャンスも出てくるでしょう。
20代の旅行参加率がなぜ落ちているのかは、実はよくわかっていません。いろいろな説がありますが、これだという確信が得られていないのが正直なところです。20代はクルマの免許取得率も落ちているし、クルマの保有率も落ちている。何でなんだろうと議論する相手が、私の場合身近にいるのですが、旅行も同じだと思います。
ただ、若い人たちの消費全体が落ちているわけではない。こちらのアプローチの仕方で変えられるんじゃないかと。価格も含めて彼ら彼女らのニーズに向き合い、応えていなかっただけなのかもしれません。そこを『BEB』を通して模索していくわけです。これまでの観光産業は、時間はあるけどお金がないと言う方が多い若年層に対して、ちょっと冷たかったという反省もあります」
星野氏の危機感が強いのは、若者の“旅行離れ”だけではない。