二十代、三十代と話すときにいつも感じるのは、「どうせ自分たちは年金をもらえないんでしょ」という諦念だ。親や祖父母ならともかく、見ず知らずの老人を養うために自分や家族が犠牲になるのはおかしいと、口には出さないまでも彼らはこころのどこかで思っている。そんな若者たちにとって増えつづける高齢者は、自分たちの幸福な世界を脅かす「難民」なのだ。
もちろん、日本がジンバブエやベネズエラのような国家破産状態になり、多くの市民が家も仕事も失って路上に放り出されるような事態が起きるとは思わない。しかしその一方で、「人生100年」時代を迎え、いまの二十代や十代、あるいはこれから生まれてくる世代に安心して暮らせるゆたかな老後を約束できるひともいないだろう。人類史上未曾有の超高齢社会は日本の避けられない運命で、人口動態はめったなことでは変わらないのだから、若者たちの不安にはたしかな根拠がある。そんな彼らが、全共闘世代の老人たちといっしょになって国会前で「民主主義を守れ」と叫ぶ同世代のグループに冷淡な視線を向けるのは当然だろう。
●たちばな・あきら/1959年生まれ。2002年国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『言ってはいけない』(新潮新書)、『朝日ぎらい』(朝日新書)、『80’s エイティーズ』(太田出版)など著書多数。
※SAPIO2018年11・12月号