さいとう:もうひとつは「待つ」ということやね。
佐藤:待つ?
さいとう:ゴルゴは標的をじっと待つでしょ。“間”がある。この“間”というのは、日本人的感覚で、他の文化からはなかなか理解しにくい。自分で描いていて、ある時、気づいたのですが、ゴルゴの行動は「無私」なんです。
佐藤:私が無い、の無私ですか?
さいとう:そう。たとえていうなら、剣の達人の無の境地に近い。撃つ時に、自分が無いんです。侍でいうところの居合い。一刀で相手を倒す。アメリカだとそうじゃない。機関銃をダダダダダダッと撃ちまくるほうがウケます。
佐藤:私、先生の『太平記 マンガ日本の古典』(中公文庫)も好きなんですが、あの面白さは「ゴルゴ=侍」にも通じるところなんでしょうね。ゴルゴの強靱な精神力は、弓道をやっている人とも近いような気がします。
◆「予定調和の世界」を銃弾1発で壊す
さいとう:ゴルゴの動じなさというのは、命の捉え方だと思う。
佐藤:どういうことですか?
さいとう:人間の命も蟻の命も一緒ということ。人間の命がいちばん重いと考えたら、どうしたっていろいろなことが絡んできます。ところが、人間ひとりの命も、蟻1匹の命も、同じ重さと考えたら、人を殺すことにいちいち躊躇はしません。平気で引き金を引ける。その代わりゴルゴは、蟻1匹たりとて無駄に殺したりはしない。それは必要のないことだから。きっとゴルゴは仕事を成し遂げた後、足下に虫がいたら、決して踏み潰さずに慌ててまたぐだろうね。
佐藤:ゴルゴらしいですね。ところで、当初から『ゴルゴ13』の最終回を構想しているとお聞きしました。あれは本当なんですか?