佐藤:言い方を変えれば、先生も50年間、まったく休んでいない。
さいとう:私らの世界は、締め切りに間に合わず、原稿を落とす漫画家がたくさんいて、漫画家も編集者もそれが当然だと思っていた。でも私からするとそれは甘え。この職業に就く前に、化粧クリームの販売、ガラス屋、ペンキ屋、映画の看板描き、キャバレーのボーイ、理髪店……といろいろやってきました。しかし、どれも仕事はいい加減にやっては務まらなかった。漫画家だって、いい加減で務まるもんじゃない。この世界に入って63年になりますが、『ゴルゴ13』に限らず、一度も原稿を落としたことはありません。それが基本でしょう。
◆病院に机を持ち込んで描き続けた
佐藤:いたく同感します。私も物書きになってから、原稿を落とさない、ということを肝に銘じています。というのも、一度落としたら落とし癖が付くと考えたからです。最近は月間90本の締め切りがありますが、1本でも落としてしまうと歯止めが利かなくなり、そのうち40とか50とか平気で落としてしまうようになるかもしれない。だから、死守しています。
しかし、先生の場合、この状況が60年以上も続いているわけですから、また凄い。短期間だけ耐えるのと、継続的に耐えるのとでは、違う難しさがある。この間、入院なさったこともありましたよね?
さいとう:病院に机を持ち込んでやりましたよ。医者は怪訝な顔をしてましたけど(笑)。
佐藤:まさにゴルゴに通ずる“プロ意識”ですね。プロを定義するなら、「自分の仕事に最後まで責任を持つ」ということかもしれません。たとえば、私は大学生時代に喫茶店でアルバイトをした経験があるのですが、その時はシンクをピカピカに磨き上げましたし、年末の大掃除では油でベタベタの換気扇も隅々まできれいにしました。それが仕事だからです。でも、いま自分の家を掃除しろと言われても、そこまではできない。そこにプロ意識があるかないかは大きな違いです。