第三夜は、和泉屋与兵衛の善意を踏みにじった強欲な帯屋久七を懲らしめて和泉屋を救済する大岡裁きが痛快な『帯久』。上方の噺を六代目三遊亭圓生が江戸の人情噺に仕立てたもので、一之輔は圓生の型をベースに生き生きと演じた。

 第四夜の『意地くらべ』は五代目柳家小さんの演目。今回の「一之輔五夜」最大の収穫はこれだろう。ご隠居に金を返すために旦那に借金をする八五郎、その心意気に感心し自ら借金してまで八五郎に金を貸す旦那、「返さなくてもいい」と言い張るご隠居、全員が実に愛おしい。とりわけ後半の牛肉を巡ってのご隠居と八五郎とのバカバカしい意地の張り合いは一之輔ならではの世界。こんな面白い『意地くらべ』は、他では絶対に聴けない。得意ネタになること間違いなしの傑作だ。

 第五夜の『中村仲蔵』は師匠である春風亭一朝の型に忠実で、ルーツは八代目林家正蔵だが、冒頭の四代目市川團十郎とのエピソードを省き、仲蔵が名題になったところから始まる。失敗したと思い込む仲蔵の人間臭さがよく出ていた。

 この企画、今年の「五夜」でファイナルのはずだったが、なんと来年は「一之輔七夜」をやるという。凄いことになってきた!

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2018年12月14日号

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