『孤独のグルメ』の原作をやっていると、グルメな人だと思われがちだが、ご馳走にはそんなに興味が無いし、おいしい店も知らない。ただ、人が頭の中でああだこうだ考えながらものを食べている有様が、なんだか滑稽で面白いのだ。だから「孤独の」なので、他人のグルメはどうでもいい。
そんなボクが好きな食べ物の本は、ボクの先生でもある赤瀬川原平さんが書いた『少年とグルメ』。この本は今『少年と空腹貧乏食の自叙伝』(中公文庫)という文庫になっている(実はボクがそのあとがきを書いている)。
赤瀬川さんが若くて貧乏だった時の話だ。学生時代、友達とパン屋からチョコボールを瓶ごと盗んでそのあまりの甘さにまいる話。アパートの隣の部屋に住む学生の味噌を盗んで、そこいらの大根の葉っぱの味噌汁を作って飲んだ話。たぶんダシなんかとってない。戦時中にひもじくて鼻くそを食糧として食べた話。友達とガムの回し喰い(回し噛み)をした話。先輩が、食パンにバターを塗る代わりに、豊年サラダオイルをたらして食べる話。
ドロボーで、不潔で、貧しくて、まずそうなのに、なんともおもしろく、豊かで、結局おいしそうだ。この本はボクの宝物だ。食べ物の話は、いつだってここに戻る。おいしいって、なんだろう。ご馳走ってなんだろう。そう思うとこの本を読み返す。
そんなに何冊も読んでいないけど、池波正太郎の食べ物本も面白い。でもやっぱり根っこには、若く貧しい頃の食べ物の味がこびりついている。食や好きな映画のことを絵と文で描いた『ル・パスタン』(文春文庫)は、池波さんの味のある絵がカラーでいっぱい入ってるので大好きだ。今日は骨が折れる仕事だぞ、という時に食べるニンニクうどんのおいしそうなこと。子供の頃、風邪を引くと母親が作ってくれたスープ雑炊も読んでいるだけでたまらない。