貧乏ということは、生活がいろいろと不自由ということだ。不自由だと、個人個人の工夫が必要になる。その工夫が独自のうまさを作る。今はコンビニが24時間やっていたりして、おでんでもおにぎりでもおいしくなっていたりするから、工夫の余地がない。
池波さんの絵に味があるのは、もともと画家でないから、デッサンなどが不自由なのだ。だから絵に独自の工夫が必要になる。池波さんはその工夫を楽しんでいる。それが絵の旨味となって、ボクの目に、とてもおいしい。
不自由といえば、刑務所は、現代の強制不自由空間のひとつの極みだ。マンガだけど、花輪和一の『刑務所の中』(講談社漫画文庫)の執拗な食べ物描写も最高だ。花輪さんが麦の混じったご飯に醤油をたらして食べたら、ものすごくうまかったという話を読んで、思わず牛タン「ねぎし」に行って、まず麦混じりご飯に醤油を2、3滴たらして食べた。うまい! 感動した。以来、いつも最初にやる。
受刑者が映画を見ながら食べるアルフォートと、コカコーラ。ゴクリと飲んで喉がジワーンとなり、思わず「こたえられねえなあ」とうなる顔を見ると、小学生のとき初めてコカコーラを飲んだときを思い出す。
写真集『地球の食卓 世界24か国の家族のごはん』(TOTO出版)は24か国30家族の、一週間に食べる食材を、家族の前に全部並べた写真集。アフリカの家族とアメリカの家族の違いには、わかっていても言葉が出なくなる。もちろん日本の家族も出ている。うわー、と思わず苦笑する。一週間でこんなに食うか? いや、食う。飲む。子供の頃の赤瀬川さんや池波さんには、想像もできない図だろう。おとぎ話の王様だって、こんなに多種多様なものを大量に料理して食べてはいない。
いやはや、人間てのはかくも卑しいものか……と何かため息をついて本を閉じ、遠くを見たくなる。でも、この本も時々開く。豊かな胃袋とは、なんだろうか。