真野恵里菜が主演する(c)映画「青の帰り道」製作委員会

「映画にはハードな撮影シーンもありますし、同じ内容を撮り直すのは精神的にも、肉体的にも大変なこと。“またあんなことやるのは嫌だ”と言われてもおかしくありません。正直言うと、どんな反応が返ってくるのか不安に思いながらの提案でしたが、出演者と事務所を含めて皆さんが協力してくださって、うれしかったです」(藤井監督)

 1年後の撮影が決まったが、目の前にはいくつものハードルが立ちはだかっていた。1つは撮影スケジュールの再調整。若手俳優陣だけでなく、工藤夕貴、平田満といったベテランを含めた全員がスケジュールを合わせるのは簡単なことではない。

「役者さんたちは、ドラマや映画のために撮影日をあけておくだけではなく、髪形や体形を作り込みます。だから撮影日だけでなく、その前後の予定調整も必要になるんです。だけど、皆さん嫌な顔ひとつせずに全面協力してくださったんです。とくに、平田さんは別の仕事現場でお会いしたときに、『撮影を待っているからね』とまで言ってくださって…。そんなふうに、同じメンバーが1年後に集まることができたのは奇跡としか言いようがありません」(藤井監督)

 キャストたちの熱意に心を動かされた藤井監督は、撮影を再開するにあたり、こう決心した。

「やるからには、去年のものを越えなければいけない。去年と全く同じカットは2度と撮らないことを心に決めました。まず手をつけたのは、事件後に家にこもっていた間に進めていた編集作業。編集すればおのずと改善点が見えてきます。映像ととことん向き合い、大幅に台本を書き直して、キャストの皆さんに変更点を説明しました。1年の間に潰れている店もあり、ロケ地探しも苦労しました。小道具や衣装も同じものを集めるのは不可能でした。だけどそんな数ある“変更点”の中で、最も大きかったのは高畑氏の代役だったと思います」

 高畑氏が演じていたコウタ役は、米倉涼子主演の人気ドラマ『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』(テレビ朝日系)にも出演した俳優の戸塚純貴(26才)が演じた。

「代役は彼以外には考えられなかったので、『去年のものは関係ない。戸塚くんのコウタを演じてほしい』と伝えました。彼はあまり言葉に出さないタイプですが、事件のあとですし、演じていて悩むこともあったでしょう。メインキャストは真野さんを中心とする若者7人ですが、戸塚くん以外は1度撮影を経験しています。そこに代役として入るのも難しかったはず。でもすぐに溶け込んでいった。結果として、戸塚くんのコウタはすばらしかったです」(藤井監督)

 同じ役を2回演じる真野らは苦しんでいた。

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