このような事態を最も怖れていたのは、生前の幸之助自身だった。経営の第一線を退いた後、幸之助は「決断すべき立場にある者」への教訓を、本書にまとめた。「経営上の体験の具体例をとりあげ」、今日と違う明日を作り出す「日本型経営理念」である。
銀行が洟もひっかけなかった時代、幸之助は人の情に訴え、好意にすがりながら市場に踏みとどまった。その苦境の中で、掴みとった経営理念だった。
パナソニックに限らず、平成の経営者の多くもまた、目先の利益を求め、この種の「日本型経営理念」を受け継いではこなかった。鉄鋼メーカーや自動車メーカーで、各種データの改ざんが行われ、企業モラルが地に落ちた今こそ、手に取るべき古典である。
※週刊ポスト2019年1月1・4日号