「舞台の時は『目が四つある』と言っています。お客さんと向き合っている二つの目の他に、頭の後ろ側にもう二つ。
後ろの方で共演者たちがどう動いているか、あるいは舞台裏で何かトラブルは起きていないか。そういったことまで感じ取らなくてはならないんですよね。
結局、『嫌だ、嫌だ』と言いながらも演じることが好きなんですよね。演じている時だけでなく、役を作って、それがある程度評価されたりすると、やっぱり凄く嬉しいですから」
東映で映画デビューしてから舞台に主戦場を移した現在まで、一貫して「スター」としての道を歩んできたようにも映るが、実際に話をうかがってみると、その意識は完全に「役者」として確立していると感じた。
「普通にやって、みんなと同じように現場で過ごしてきました。『私はスターだから』という意識は全くないですし、そういうのは好きではないです。
東映の『五番町夕霧楼』の時も、主演とはいってもスターとして扱うというよりも役者として丁寧に扱っていただけました。ですから、私も決して甘えることはありませんでした。
スターというのは、お客さんやご覧になった方がそう思ってくださるだけであって、私としては役者としての道を自然と歩いてきましたから」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2019年1月11日号