音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、志ん朝が亡くなってから、師匠の演目に積極的に取り組む古今亭志ん輔についてお届けする。
* * *
志ん朝没後、遺志を継ぐかのように師匠の演目に積極的に取り組む古今亭志ん輔を、僕は積極的に追いかけるようになった。中でも毎年4月と11月に国立演芸場で行なう「志ん輔の会」は、大ネタをじっくり聴けるので毎回楽しみにしている。昨年11月29日の「志ん輔の会」では『芝浜』がネタ出しされていた。
今回のゲストは芸協から橘ノ双葉。三遊亭圓馬門下の女性二ツ目で、今年5月に真打昇進して三遊亭藍馬と改名することになっている。演じた『女泥棒』は2011年に三遊亭白鳥が柳亭こみちのために書き下ろした「女性演者用の」新作落語。江戸で有名な女の大泥棒の許に弟子入り志願の娘がやって来る噺だ。
志ん輔が1席目に演じたのは『三十石』。江戸の二人連れが伏見から大阪へ三十石の夜船で下る道中を描いた噺で、元は上方落語。船宿の番頭や主人、船頭、乗り合わせた婆さん、橋の上から声を掛ける中書島の女郎屋のおちび等々、多彩なキャラを賑やかに演じ分け、良い喉で船唄を朗々と歌い上げる。淀の水車に差し掛かり月が上ったところで「三十石、夢の通い路」とサゲた。
志ん輔の『芝浜』は、財布を拾うくだりをリアルタイムで描写しない「志ん朝の型」で、魚熊が仕事に行かなくなる経緯を冒頭で語る。酒浸りの熊がお得意に小言を言われた後、「腕がいいだけにこういう言葉が胸にこたえる」と、地で熊の心情を語ったのは説得力があった。