同時期の海軍軍人の日記では、聯合艦隊参謀長という要職にあった宇垣纒中将の『戦藻録』が名高いが、軍服姿から溢れ出る「人間味」では、本書も引けを取らない。こちらは艦隊司令部が重巡「鳥海」に移ってくると、自分たちは寝室の移動を余儀なくされるので、ボヤく立場であるが。
日記の編者・平間洋一は著者の長男である。防大出身で、海上自衛隊の海将補も務めた軍事史の権威で、父よりずっと偉い「軍人」だ。日記の中では病弱で父の心配の種だった長男が、父の日記を翻刻し、本にする過程で、父の生前には碌々叶わなかった父子の対話を実現している。それも貴重だ。
※週刊ポスト2019年2月8日号