ライフ

天皇の正統性の根拠となる「三種の神器」は3セットあった

剣璽等承継の儀。1989年1月7日、正殿・松の間 共同通信社

 平成の世を通じ、天皇は象徴天皇としてあるべき姿を模索してきた。だが、歴史を俯瞰すれば、天皇の意思に反して時の権力者が都合のよい天皇像を作り上げた時代も少なくない。ポスト平成に天皇像はどう変化するのか。現代史の専門家・秦郁彦氏と中世史の専門家・本郷和人氏が歴史を踏まえて考察する。

本郷:三種の神器は、僕らの先輩である歴史学者たちがひねり出した「頓智(とんち)」だと思っているんです。大逆事件のとき、幸徳秋水に「いまの天皇は偽物じゃないか」と言われて、山縣有朋が血相を変えて「そこのところはどうなってるんだ!」と吠えたという話がありますよね。そこで正統問題に決着をつけるために歴史学者がひねり出したのが、「三種の神器を持っているのが正統的な天皇だ」という答えだったのだろうと。そこで問題になったのは、やはり南北朝時代なんです。後醍醐天皇のまわりには少なくとも三種の神器が3セットあったんですよ。

秦:3セットも?

本郷:1つは、比叡山に立てこもっていた後醍醐天皇が「恒良親王に帝位を譲るから、これを持って北陸に行ってくれ」と新田義貞に渡しました。さらに後醍醐天皇は、北朝に降伏したときも手土産として三種の神器を渡しています。ところが京都を出奔して吉野に行くと、「あいつらに渡したのは偽物だから、本物の神器を持っている自分が天皇である」という。こうなると、どれが本物かわかりませんよね。

 三種の神器を持ってる天皇が正統なのではなく、正統な天皇が持っているのが本物の三種の神器だと考えたほうがいい。しかし僕らの先輩方は「三種の神器に守られた天皇が本物だ」という理屈をひねり出した。すると「後醍醐天皇が吉野に持っていった三種の神器が本物だから南朝が正統だ」という話になります。しかし1392年には、後亀山天皇がその三種の神器を京都で北朝系の後小松天皇に渡した。だから、その子孫である明治天皇の正統性には一点の曇りもないというわけです。

【PROFILE】はた・いくひこ/1932年山口県生まれ。現代史家。東京大学法学部卒。大蔵省入省後、防衛大学教官、大蔵省財政史室長、プリンストン大学客員教授、拓殖大学教授、千葉大学教授、日本大学教授などを歴任。著書に『靖国神社の祭神たち』『慰安婦問題の決算』『実証史学への道』などがある。

【PROFILE】ほんごう・かずと/1960年東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。中世政治史が専門。東京大学文学部卒。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。近著に『軍事の日本史』『考える日本史』『やばい日本史』などがある。

※構成/岡田仁志(フリーライター)

※SAPIO2019年4月号

関連記事

トピックス

2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
横浜地裁(時事通信フォト)
《アイスピックで目ぐりぐりやったあと…》多摩川スーツケース殺人初公判 被告の女が母親に送っていた“被害者への憎しみLINE” 裁判で説明された「殺人一家」の動機とは
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト