「霧隠才蔵が女になったら一体どういう格好をするんだろうと思っていました。色っぽい話もあるし、戦の話もあるので。
すると千田先生が『美佐子の役はこれだよ』と、ご自分でデッサンなさった絵を持ってこられたんです。それが、下は網タイツにショートパンツ、上は半分着物で腕は網、それで髪はポニーテール。なるほど、こういう格好なら通用すると思いました。その格好が受けまして、それ以来、女の忍びの者というとみんな網タイツにポニーテールになったんですよ」
『真田~』は翌六三年に東映が中村錦之助主演で映画化。渡辺は引き続き才蔵役を演じた。
「京都で公演した時に中村錦之助さんと有馬稲子さんが見に来られたんです。ちょうどお二人がご結婚されていた時で。それで、『あなた、二枚目ばかりじゃなくてこういう役もやらなきゃダメよ』と説得して、東映は錦之助さんがおっしゃるなら、ということで決まりました。
私は加藤泰監督に言われて乗馬の稽古をしましたね。撮影では鞍もない裸馬に乗せられて、死に物狂いでやりました」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2019年3月15日号