映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優座養成所を卒業して劇団新人会に入団した渡辺美佐子が、時代の鏡として現在に生まれた作品に魅力を感じたこと、『真田風雲録』で女忍者となった思い出について語った言葉をお届けする。
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渡辺美佐子は俳優座養成所卒業後の一九五四年に劇団新人会に入団すると、ブレヒトの『家庭教師』ですぐに主役を演じた。
「俳優座には素敵な女優さんが大勢いらっしゃいましたが、新人会は一年上の小沢昭一さんたちが作ったばかりの劇団ですから、俳優があまりいないんですよね。それが私には凄くラッキーでした。俳優座に入っていたら、しばらくは通行人とかからだったと思いますが、最初から主役でしたので。ですから、女優としてやっていこうとか考える暇もない感じで、次から次へといい仕事をもらえたんです」
六二年、千田是也・演出、福田善之・作の舞台『真田風雲録』では、真田十勇士の一人、霧隠才蔵を演じている。
「当時は六〇年安保闘争というのがあり、稽古が終わったらみんな当たり前のように代々木公園に集まってデモに参加していました。それでも安保は通ってしまった。その挫折感が覆っていた時代で、無念の想いを福田さんは作品にぶつけていました。
私は初舞台からブレヒトとかボルヒェルトとか、千田先生のドイツ系の硬い翻訳劇をやっていたのですが、あまり楽しいとは思えませんでした。といいますのも、舞台も映画も『時代の鏡』ですので、過去の名作ではなく、その時代の『今、現在』に生まれた作品に魅力を感じるんです。その楽しさを教えてくれたのが福田さんの作品でした。
ですから、最初はブレヒトをやりましたが、その後はその時代に新しく作られた創作劇ばかりに出ています。創作劇って、演じる身にとっては凄い賭けなんですよ。『こういう話を書きますよ』と言われてはいますが、どんな作品が来るかは分からないわけですから。
でも、やらなきゃよかったと思ったことは一度もありません。そういう時代の息吹を伝えられてよかったと思っています」
『真田風雲録』の才蔵は、「戦う女忍者」像が初めて可視化されたキャラクターでもある。