日本人の死因第1位であるがん。これまで長く、「見つけたら切る」が治療の常識だった。外科手術でがんをすべて切除すれば再発の可能性が減るという前提に立ち、「早期発見、早期切除」が大目標とされてきた。
だが近年、その常識が変わってきている。歳を重ねるほどに「手術を受けない」という選択も有力になってくるのだ。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が解説する。
「加齢とともに、手術自体に体が耐えられないリスク、さらには手術の合併症で後遺症が残ったり命にかかわるリスクは高くなります。がんを治すための『切る』という行為が、かえって余命を縮めることもあるのです」(室井氏)
例えば、男性の罹患者数では5番目に多い肝臓がんも、かつては手術が第一選択肢だったが、東京ミッドタウンクリニックの森山紀之医師(71)はこう話す。
「肝臓の入り口である肝門部には主要な血管が入り組んでいるため、これらを傷つけると大量出血することがあり、最悪の場合死に至ってしまう。
リスクが大きい上に、肝臓がんは再発が多く、その都度肝臓を切除したら患者の負担が重くなります。3cm程度のがんの場合は、皮膚の上から肝臓内の腫瘍に直接針を刺し、電磁波を当てる『ラジオ波焼灼療法』で焼き切れます。患者の負担が少なく、再発しても繰り返し治療できるメリットがある。
腫瘍が大きい場合は、カテーテルを使って、抗がん剤や肝動脈を塞ぐ物質を注入し、がんを壊死させるカテーテル療法が有効です」(森山医師)
※週刊ポスト2019年3月15日号