矢部:僕自身それがラクというのもあるんです。テレビでも企画段階から自分で考えるのではなく、スタッフの方々が練ってくれたプランに沿って当日現場で言われた役割を全力でやるような形が心地よくて、つい流されてしまいます。
はるな:それもよくわかります。『ダルちゃん』の最初のほうで描いた“役割があるから居場所がある”というのはまさにそういうことで、私も派遣社員時代は、言われたことをやっているだけで時給が発生するなんてありがたいなと思っていました。でも私はだんだんその生活が窮屈になり、毎朝顔に何かを塗るのも、なんなら靴下を履くのも面倒くさくて(笑い)。会社員への擬態がしんどくて、ダルダルのままパジャマ姿で家に籠もって描けるマンガの世界へ飛び込んだというのもあります。
矢部:ダルちゃんはその「擬態」こそが「普通」だと考えて、頑張り続けますよね。
はるな:「普通の人」はいないというのが根底にありますが、一方で、社会で生きていくにあたって社会性はないと困るだろうという気持ちもあるんです。本能に従って自然に生きる側面と、社会に適応する側面を両方持ち、それぞれ心地良いバランスにチューニングするのがいいんじゃないかなと。
矢部:ひとりひとりの「普通」は違うから、本当は普通なんてない。法律はもしかしたら「普通」を考える一つの尺度かもしれないけれど、その程度以上の普通はないと僕は思うんです。自分の普通とみなさんの普通は違う、と尊重することがいちばん重要なことじゃないかと思います。
はるな:そうですよね! チューニングするのも他者の目線に応えようとしてではなく、あなた自身がそこに満足していますかと問いたい。頭で考えたことではなく、腹からわきあがってくるものから目をそらさないで正面からちゃんと向き合ってほしい、あなたがあなたを裏切らないでほしい──というメッセージを込めています。