ゾンビ映画の撮影中に本物のゾンビが来襲する様子をワンカットで37分撮影し続ける長回しが話題となった映画『カメラを止めるな!』は、SNSを中心に評判が拡大、都内2館で始まった劇場公開は全国300館以上に広まった。作品だけでなく、監督や出演俳優たちがサクセスストーリーを歩む様子は爽快ですらある。勢いはまだ衰えず、3月になって初のスピンオフ作品『ハリウッド大作戦』(AbemaTV)が公開された。イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、スピンオフとなっても衰えぬカメ止めの魅力について考えた。
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3月8日、映画『カメラを止めるな!』が日本テレビ系『金曜ロードSHOW!』で放送された。作品の見せ場であるカメラ1台、ワンシーン・ワンカット撮影に挑んだ冒頭の部分は一切CMなし。副音声では、監督・上田慎一郎と出演者による生解説が繰り広げられた。
言ってしまえば、話題作が地上波初放送されただけだ。しかし、これだけの祭となるのは『カメ止め!』ゆえだ。出自がインディーズといった特殊性はさておき、多くのファンを持つがゆえの好待遇だろう。同日、AbemaTVではスピンオフ作品『ハリウッド大作戦!』も配信された。
物語は本編から半年後。「ドラマ『カメ止め!』のヒロイン・千夏が“ホリー”と名乗り、ハリウッドで新しい人生を歩もうとしていた……。平穏な生活を再び手に入れたと思いきや、そこにゾンビが襲いかかる」こんな物語を撮るドタバタな制作裏側を見せるストーリー。
本作を観た方ならお分かりになるだろう、タネも仕掛けもほぼ同じ。ただ、スピンオフに視聴者が求めるものは偉大なるマンネリ。そういった意味で満足度が高い仕上がりとなっていた。
僕は初めて『カメ止め!』を鑑賞した際、物語が持つ多様性に魅力を感じた。誰しもの琴線に触れる作品だと思った。
一緒に鑑賞した60歳の編集者は「今回は2度目だから泣かなかったけど、最初に観たときは泣いた」と語る。親子愛の部分に心掴まれたらしい。ネタバレをしてきた友達は”業界あるある物語”としてこみ上げるものがあったという。主人公の監督にシンパシー、感動とは別のところで大号泣。別の友達はあるキャラクターに恋、確かにアイドル映画的な要素もある。各人、注目する部分がこれほどに異なる作品も珍しい。
『カメ止め!』で演じられる役柄の名前は、俳優の芸名がそのまま使われている人が多い。主人公・日暮隆之を演じたのは濱津隆之で、その娘・日暮真央を真魚(まお)が演じた。キャラクターと当人を同一視させる作り。この作品にはキャラ萌え要素もある。だから強い。
早すぎる同窓会みたいな作品とも言えるが、変更された点もある。そのなかで最も大きなポイントは、ネスレがスポンサーについたことだろう。その影響は作品に如実に現れていた。
打ち合わせシーンではコーヒーカップが映り、ふとした背景にはネスレのコーヒーメーカーが置かれ、主人公が気合をいれるためにコーヒーをゴクリ。不自然のないカタチでネスレがアピールされる。番組に入るネスレのCMもスピンオフのスピンオフと書きたくなる内容。『カメ止め!』で演じられたキャラクターのまま、ネスレ商品を宣伝。