音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、二ツ目昇進襲名披露公演をホールで行った、かな文改め橘家文吾の、キレがよく骨太な芸風についてお届けする。
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2月12日、初台の角筈区民ホール(客席数236)で開かれた「かな文改メ橘家文吾二ツ目昇進襲名披露公演」に出掛けた。文吾は橘家文蔵の一番弟子。2015年1月に入門し、昨年11月に二ツ目昇進している。前座名の「かな文」、襲名した「文吾」、どちらも文蔵が前座・二ツ目時代に名乗っていた高座名だ。
二ツ目が活躍する時代とはいえ、昇進披露公演をホール規模で行なうというのは珍しい。文蔵と仲のいい柳家喬太郎、入船亭扇辰、柳家喬之助、柳家小せんと、錚々たるゲスト陣が名を連ね、ほぼ満席だ。
前座の三遊亭ぐんまが文吾ネタを交えての『初天神』で開口一番を務めた後、まずは小せんが披露目らしくおめでたい『一目上り』をサラッと演じ、続く喬之助は『出来心』。間抜けな泥棒を文吾で演じるスペシャルヴァージョンだ。泥棒の噺は寄席の世界では「お客様の懐を取り込む」という意味で縁起がいいとされ、これも披露目に相応しい。
扇辰は3年ぶりくらいという『狸札』。一皮むけて芸が良くなることを「化ける」ということからの、これまた縁起を担いだネタ選びだ。